江口寿史展
EGUCHI in ASIA
2024/11/09(土) 〜 2025/01/12(日)
福岡アジア美術館
2022/01/15 |
新たな年が明けた。だが、2022年を迎えるやいなや、ここまで短期間のあいだに全国各地でオミクロン株が驚異的な感染拡大を引き起こすとは、なかなか想像することが難しかった。
もっとも、この連載でも触れたかもしれないが、一昨年から昨年の年末年始にかけても、感染者の急激な増加があった。その意味ではよく似た反復をしていることになる。その大きな要因が年末に特有の催事や人出によるものなのだとしたら、人はそれを知りつつ行動の抑制をしなかったことになる。いや、逆に次の感染の波が来ることがわかっているからこそ、その前に享楽を済ませておこうとする心理さえ働いていたのではないだろうか。そうなら、渦中にあるパンデミックのなかに、私たちはいよいよ四季に代わる別の周期性を見出しつつあるのかもしれない。
だが、空気感染に近いとも言われるその感染力とワクチンによる抗体効果の減衰時期のことを考えると、これまでで最大の危機的な状況となることも考えられなくはない。オミクロン株は爆発的な感染力のわりに重症化のリスクは少ないというのが定説となりつつある。だが、感染力が強ければそれだけ感染者の母数は大きくなり、どうしても一定の割合で重症者が増えてしまうからだ。
だが、オミクロン株でもっとも懸念されるのは、重症化のリスクが低いことそれ自体かもしれない。重症化のリスクが低いということは、おのずと無症状感染者の割合が高くなることを意味する。無症状感染者は症状を感じないから無症状なのであって、普通に生活していてわざわざ感染しているか否かの検査を受けることはなかなかないし、それなら通常どおり職場に出たり人と会ったりするだろう。
つまり、ウイルスはこれまでに輪をかけて透明化しつつあるのだ。弱毒化して感染力を高め、逆に生き残るうえでの進化を遂げつつある、と言ってもいい。このような状態に起因して今後、感染者数が増え続けるようなことがあれば、社会のなかにますます未知の隣人を忌避する傾向が出てきてもおかしくない。そうでなくてもいつ、どこで誰からウイルスを感染させられるかわからない不安を抱えるようになっている。より些細なことがさらに大きな憎しみを煽るようなことにもなりかねない。
このようななか、アートはいったいどのように状況への対応をしていけばよいのだろう。というのも、アートは2000年代以降のグローバル期に、その流動的な関係性を武器にプロジェクトやワークショップの方法を取り入れ、未知の隣人とともに可能性の拡大を続けてきた。ところがここへきて、人と人との関係性そのものが「新しい生活様式」のひとことでは片づけられないネガティヴな要因を含んで変質しつつあることがわかってきた。感染防止対策やリモート技術の導入で数年を堪え、以前の方法論は維持したまま「嵐」の去るのを待つ、というやり方は通用しそうにない。
今年は1年の延期となった「越後妻有 大地の芸術祭2022」や国内で最大規模の「瀬戸内国際芸術祭2022」、そして新体制となった「あいち2022」など、各地で大型の国際芸術祭が相次ぐ。アートの核心にあるのが他者との出会いなのだとしたら、2022年という年こそ、アートにしかできないその新たな回復の可能性が求められている。(椹木野衣)
=(1月13日付西日本新聞朝刊に掲載)=
椹木野衣(さわらぎ・のい)
美術評論家、多摩美術大教授。1962年埼玉県生まれ。同志社大卒。著書に「日本・現代・美術」「反アート入門」「後美術論」「震美術論」など。
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九州芸文館