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【連載】藤浩志 地域と美術のすきまのやもり 9

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藤浩志
2017/10/10
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たまり場での時間​

 大学1年の時にとにかく時間とエネルギーを持てあましていた頃、京都の三条大橋のすぐ横の鴨川沿いにある24時間営業のコーヒーショップ「からふね屋」をリビングルーム代わりにして1日2回計6時間ぐらいは川沿いの窓際の席で過ごしていた。
 当時暮らしていたのは寺町二条にある鰻(うなぎ)の寝床と呼ばれている典型的な京都の町家の中庭の奥の2階の3畳二間という中途半端な部屋の間借り。そこでは自炊ができず、早い時間に部屋に戻ると大家さん家族が寛(くつろ)ぐリビングルームを通り抜けなければならない。鹿児島から京都に出たばかりの若者としてはその大家との会話が苦手で、顔をあわせるのが嫌だったため、寝静まるまで帰れなかったという事情があった。
 多くの時間はいつも持ち歩いていたクロッキー帖を広げて一人で何かを描きながら時間を過ごしていたが、たまには友人たちと無駄な会話を重ね、演劇をやることになり、演劇の台本や演出を考えたりもした。そこの窓際の席から毎日向き合っていた鴨川の風景。その川の流れを何度かそのクロッキー帖に描いたこともある。
 その川の流れに深く関わろうと思ったのは4年後。大学も東山七条から西山の奥の桂坂に移転し、住まいも太秦を経由して上桂に移動し、大学院に入り、自分自身の新しい表現活動をはじめようとした時のことだった。当時よく一緒に行動していた友人の松本君が京都鴨川の河川敷で美術展を行おうと言い出した。
 彼は興奮気味に語り出す。京都鴨川の河川敷は日本の文化を象徴する歌舞伎の発祥の場なのだとか。新しい芸術表現は京都の鴨川から始まるのだ、歴史を変えるのだとやたらと熱い。
 当時染織科の部屋をかなり奔放に使える立場にいたので、いっそ鴨川の中に自作の鯉(こい)のぼりを数十匹展示してみようかとイメージした。鴨川に深く関わりたいと思ったのだ。深く関わりたいところに向き合う時間をつくること。そこから予想を超えた何かが始まる。
(美術家。挿絵も筆者)=7月11日西日本新聞朝刊に掲載=

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