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【連載】藤浩志 地域と美術のすきまのやもり 11

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藤浩志
2017/10/14
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やってみて考える

 「必死に川をのぼっているつもりの鯉(こい)たちなのだろうか」
 なんとも情けないタイトル。普段は大空に泳ぐ鯉のぼり。しかし川の中を自由に泳ぎたかったのだ。ということで、京都の中心部を流れる鴨川に自作の鯉のぼり13匹を泳がせてみることにした。三条大橋の橋桁に金属のワイヤを張り、こいのぼりを繋(つな)ぎ止める。
 本当は許可を取って設置するつもりだった。しかし知識も交渉力も会話力すらなかったので、どこで誰の許可を取ればいいかわからなかった。企画書を持って近くの交番に入り、そこから五条警察署に行き(なぜか警察だと思っていた)、そこで役所に行けと言われた。市役所の案内のお姉さんにいろいろと説明し、どこかの部署を紹介されたが全く相手にしてもらえなくて屈辱の時間を過ごした記憶がある。結局「常識を知らない力」が作動して、やってみてから考えることにした。
 展覧会当日、友人たちと朝4時ぐらいからワイヤを張る作業を開始した。鯉のぼりを設置するうちに三条京阪の駅から始発電車が走り始め、人通りが多くなる頃完成。見事な景観に満足した。イメージして描いた風景が三条大橋のたもとに実現し感動した。
 その日は京都市内のギャラリーやライブハウス、商業ビルなどを使った「アートネットワーク’83」という友人と企画したアートイベントの初日で、最先端のスペース、アビエックスでのオープニングがあった。僕が引退した劇団の後輩、古橋悌二君がユニットを組んで初めてのパフォーマンスを披露していた。その会場の友人から僕の鯉のぼりが無かったと聞き、三条大橋に走る。昼すぎまでは展示されていたのに、どこに流れたのか影も形もない。少し下流まで探してみたが、橋桁に頑丈に取り付けたワイヤも消えていたので、狐(きつね)につままれたような気分でその夜を過ごした。
 実は次の日から数日間バイトの出張で3日間京都を離れてしまった。鯉のぼりの行方を気にしながら家に戻ると、大変なことになっていた。
(美術家。挿絵も筆者)=7月13日西日本新聞朝刊に掲載=

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