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【連載】藤浩志 地域と美術のすきまのやもり 16

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藤浩志
2017/10/26
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関係を作る​

 いつも暮らす住宅街の空き地に「建設未定地」「建設物の完成はありません。」と明記された妙な看板が立ち、夕刻になると光を放つモニターがノイズ音を出し、そこで暮らす若者がいたら、きっと危険だと思うにちがいない。当時の僕は見知らぬ大人に声をかけることも苦手だったし、自分のことを上手に説明することなど到底できなかった。そもそも、自分がやろうとしていることがわからない。自分の認識を超えたことをしようとしているのだから仕方ない。近所で暮らすおじさんには不可解な行為だし、犬の散歩で通りかかる女性には恐怖の対象だったと思う。
 とにかく挨拶(あいさつ)を心がけていたので、そのうち近所の人が話しかけてくれるようになる。いろいろ問われ、僕は懸命に説明するけど、もちろん説明できない。僕が美術大学の学生であり、アートプロジェクトの出品作品として行っているのだと説明すれば「ああ、アートね」と納得すると思ったが、僕はそのことだけは言わないようにする。アートとしてしか成立しない作品に疑いを持っていたからだ。ごくわずかな近所の人だったが、毎日のように話すことになる。そのうち差し入れをもらうようになり、家にも招待され、食事をご馳走(ちそう)になったり、お風呂に入れてもらったりするようになる。
 その当時、近くの屋根が崩れ落ちた廃屋の一部に寝袋で暮らしていた。水道とトイレは近くの公園を使っていたのでほとんど浮浪者のような雰囲気だったと思う。「君ぐらいエネルギーがある若者ならこれから何でもできる。だからちゃんとした仕事につきなさい」と励まされた。自分の行為は意味不明だったが、励ましてくれる人との関係が生まれたのは嬉(うれ)しかった。
 空き地の空間の質は日々研ぎ澄まされてきたような気がしたが、それを見に来る美術関係者の数はほんの数名。美術としてみてすぐ帰る。なにかが違う気がした。しかし、近所のおじさんとの関係はなんだかいい気持ちだった。(美術家。挿絵も筆者)=7月21日西日本新聞朝刊に掲載=

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