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【連載】藤浩志 地域と美術のすきまのやもり 17

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藤浩志
2017/10/28
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超えることを知る

  秋田の美術大学の副学長室と事務室で大学関係の書類に目を通し、ポンポンと判子(はんこ)を押し、研究室に戻り学生の悩み相談を受け、メールやメッセンジャーのメッセージをチェックし、かかってくる内線電話と携帯電話の対応をしたのち、急いで大学を出て、借りたばかりの制作スタジオの鍵を開けて電気工事業者の対応。そのまま秋田駅前に車を停(と)めて、秋田新幹線に乗り、せんだいメディアテークに向かう。
 どうでもいいことだが、秋田新幹線は必ず後ろ向きに走り始める。車体は新幹線だが、踏切のある在来線を走る。新幹線の中で電源を借り、メールやメッセージの返事を打ち返したあと、この原稿に向きあう。新幹線や飛行機などの移動中やその待ち時間が原稿を書く貴重な時間となっている。
 美術大学に勤めるようになり、美術を学ぶ高校生に会うことが多くなった。秋田公立美術大学は、充実している割に授業料が安いこともあって全国各地から入学者が来る。その関係で全国の美術系の高校に呼ばれて高校生に直接授業することが増えた。福岡、熊本、宮崎、鹿児島、沖縄など九州からの学生も多い。
 彼らと接して気づいたことがある。美術系高校生の多くは美術を求めて美術大学に入ってくるという事実だ。当たり前か。美術に憧れ、美術を求めて、美術に近づこうとする時期がある。好きな作家の作品の模写をしたり、その技法を学んだり、その思考をなぞったり。そこまでは理解できると思う。問題はそこから。大学に入ってから美術をなぞることはない。僕らは美術を求め、超えることを導く。超える態度や手法や思考を導く。そのことを共有している教員が少ないということに気がついた。
 これは何も美術だけのことではない。どんな世界でも、最初は憧れから始まり、追い求める時期がある。それは入り口でしかない。その先、プロの世界に入るには「超える」ことが必要になる。そして超え続ける生活を繰り返すうちに「追いかけられる」立場になる。まずい。(美術家。挿絵も筆者)=7月24日西日本新聞朝刊に掲載=

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