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【連載】藤浩志 地域と美術のすきまのやもり 19

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藤浩志
2017/11/02
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エネルギーの発揮​

  当時母親が車を乗り換えるというので譲り受けた車、薄いゴールドのシビックの屋根に覆いかぶせるようにお手製のゴジラを載せる。頭が屋根からフロントガラスを覗(のぞ)き込むような姿勢で置くと、両手が運転席と助手席のバックミラーの上ぐらいにきて、両側の窓を閉めることで固定できた。尻尾を車のテールのように少しだけ飛び出す感じに固定して、その先端に赤いバンダナを巻く。なんとも収まりが良くかなりの完成度。
 友人たちと思いつくまま持って行き、僕がゴジラのなかに入り散歩する。当初はみんなで作った共有物のつもりだったが、ゴジラの内側は僕の汗で汚れ、においも臭く、結局僕しか入れなくなってしまった。ごめんなさい。
 京都・大阪のいろいろなところをゴジラは散歩し、子どもたちやおっちゃん、おばちゃんにも人気だった。写真を撮影して紙芝居風の演劇を行う素材を作るために、本屋、パチンコ屋、ラーメン屋、交番などに入り、他の客と絡んで楽しむ。
 あるとき展覧会の企画で東京の赤坂のギャラリーKでパフォーマンスを行うことになり、車でゴジラを運び、赤坂の街を散歩する。関西では行き交う人の反応がよく受けも良かったが、赤坂の街をゴジラで歩いても、誰も見向きもしない。さすが有名人が多いまちだなと思い、大きなMマークのハンバーガー屋に入ってみる。一瞬アルバイトの若い店員は戸惑ったが、奥から素早く店長が出てきて「いらっしゃいませ。ご注文は何にいたしましょうか。」とマニュアル通りに聞いてきた。すごい。さすが東京だな。
 僕は誰にも知られていない学生だったけれど、ゴジラの中に入ると突然有名人になる。裸の王様の物語で正直者にしかみえない王様の衣装の嘘を暴いたのは純粋な子どもだったが、その服をつくり王様に着せた詐欺師が実は作家として重要なのではないかと思った。大人の社会で当たり前のように誰もが身につけてゆく肩書とか、権威とかについて疑い、暴くことはできないものかと考えたりしていた。(美術家。挿絵も筆者)=7月26日西日本新聞朝刊に掲載=

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