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【連載】藤浩志 地域と美術のすきまのやもり 24

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藤浩志
2017/11/14
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時間を遡る手段の発見​

 大学院を卒業してしばらくは、学生時代につくった京都情報社という会社のような団体のおかげで忙しく、就職していなかった。京都に地下鉄が走り、京都駅に新しい商業施設ができて、そこの夏のキャンペーンだとか、ディスプレーだとか、パフォーマンスなどを仕事として請け負っていた。しかし、経営なんて知らない。頼まれた仕事を言い値で行うだけ。さすがに半年ぐらいすると将来の不安を感じてきた。
 そんなとき、学芸員のようなアルバイトでお世話になっていた博物館学の榊原吉郎先生から、大阪にできる新しい文化施設での学芸員の仕事を推薦され、面接を受けることになった。
 最寄りの上桂駅から阪急電車で大阪に向かう。面接の後にギャラリー巡りでもしようかと情報誌エルマガジンを購入して電車の中でぺらぺらめくっていた。その瞬間、まっくろい笑顔の少女がキラキラとした目で僕の方を見ているページで手が止まる。
 「途上国へ2年間!」
 なんだろう。開発途上国という言葉は聞いたことがあるが、意識したことがなかった。ふと、思わず妄想が頭を駆け巡った。
 そもそも美術の概念が日本に輸入される以前の状況に興味があった。そして明治維新以降、急激に西洋文化が入りこんで新しい表現が生まれる状況に興味があった。タイムマシンでもない限り、時間を遡(さかのぼ)り、江戸時代や明治時代には行けない。しかし、開発途上国にゆけば…。
 地域を変えることで、国を変えることで、西洋文明が導入されはじめた明治初期のような状況のところにゆけるかもしれない。実は世界各地でいろいろな時間軸があるのではないかと思い至ったのだ。未知の世界が広がっていると思った。開発途上国という響きが心地よく感じられ、その募集記事を詳細に読み始めた。
 ちょうどその日、今向かっている大阪で説明会が開催されるという。これは運命かもしれない。面接をお願いしていた美術館準備室の担当者に電話してキャンセルし、青年海外協力隊の説明会会場に向かった。(美術家。挿絵も筆者)=8月2日西日本新聞朝刊に掲載=

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