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【連載】藤浩志 地域と美術のすきまのやもり 25

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藤浩志
2017/11/16
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成長し続けることへの疑問​

 京都の西山、大原野に善峯(よしみね)寺という寺がある。その境内に遊龍の松と呼ばれる全長50メートルを超える樹齢600年の老松がある。真ん中の松の高さはせいぜい3~4メートル程度、その両側に人の手入れがしやすい2~3メートルの高さで枝がまっすぐ20メートル以上も伸びている。自分の重さを支えきれないので無数の支柱がその枝を支えている。
 松の木が植えられた頃は普通にのびのびと成長していたのだと思う。しかしある時から、二つの方向に伸びる以外の枝は人間の意志によって剪定(せんてい)されてきた。意志に反する方向に成長しようとしてもそれは制御され、その後数百年にもわたり二つの方向にしか伸びることを許されていない。その姿に向き合い、成長し続けることへの疑問を感じていた。
 ちょうど大学を卒業し、就職活動がきっかけで成長し続けることが前提の企業について考えるようになり、青年海外協力隊に参加することも決まって国際協力とか政府開発援助についてとか、国家のあり方のようなものについて視界が広がりつつあった頃である。成長させられ続ける老い松と、「成長し続けること」が前提としてある社会の構造とを重ね合わせ、その違和感を言葉にできずにモヤモヤしていたのだと思う。
 当時京都の上桂の一軒家を、草刈りと掃除をするという条件の下に無償で借りていた。そこを引き払うことがきっかけとなり、その家で友人と展覧会「上桂1-115」を行うことにする。
 その展覧会のために遊龍の松の実物大模型を作った。庭にあった松の木の両側に松葉の塊を模したぬいぐるみ状の塊が、何本もの炭焼き丸太で支えられながら家の中まで伸びている。一つの枝は家を貫通して玄関から飛び出し、もう一つは途中で枝分かれして階段から2階に伸び、寝室の窓から飛び出している。毎日そこに一組ずつゲストを観客として招き、言葉にできない様々な違和感について語り合おうと努力した。
 「人は、企業は、国家は成長し続けることが必要なのだろうか?」
 多くの疑問を抱えたまま、開発途上国へ向かった。(美術家。挿絵も筆者)=8月3日西日本新聞朝刊に掲載=

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