九州、山口エリアの展覧会情報&
アートカルチャーWEBマガジン

ARTNE ›  FEATURE ›  連載記事 ›  【連載】藤浩志 地域と美術のすきまのやもり 27

【連載】藤浩志 地域と美術のすきまのやもり 27

Thumb micro fa6a5588b3
藤浩志
2017/11/21
LINE はてなブックマーク facebook Twitter

色がないところ​

 窓の外を眺めていた。見慣れた日常の風景だが、冷静に考えたらすごい風景だ。ジョー・ナロというパプアニューギニアを代表するペインターの研究室で助手のような形で机をもらい、そこの窓から見える学校の庭。花が咲き乱れ、蝶(ちょう)が飛び交っている。
 両手の指で四角いフレームを作り、その中に幾つの花があり、蝶が飛んでいるかを数えてみた。おおよそ100ぐらいの花が咲き乱れて、蝶が20-30匹は飛んでいる。体を動かして目の前の風景にいくつのフレームが入るかを数えてみる。30コマぐらいだろうか。ということは、目前の風景に3千ぐらいの花が咲き乱れ、600匹以上の蝶が飛び交っていることになる。
 鳥の鳴き声は何種類も聞こえている。目では見えないが様々(さまざま)な昆虫がその風景の中に生きている。植物なども合わせると数万という生命が平和な日差しを受けて鮮やかに生きている。まさに極彩色の楽園の風景。
 しかし現地の言葉には色を表す言葉がないのだとジョーが教えてくれた。色が溢(あふ)れる世界では色の違いを概念化する必要がない。平和や自由という概念が戦場や束縛された状況において初めて求められるように、概念や言葉は失った時、あるいは奪われた時に芽生えるということを知った。一年を通してパパイア、バナナ、マンゴーのように多くの美味(おい)しい食べ物が実っているからこそ、味についての言葉も少なく、美味しいことをイナップ(=いっぱい)と呼んでいた。
 近年東北に暮らすようになり、一年の半分、白い雪で閉ざされる生活の中で、この地域の人にとって色がいかに重要かということを知った。冬に向かい世界が閉ざされる前の紅葉の色に心を動かし、雪に閉ざされたあと、新緑や芽吹きを待ち焦がれる。花咲き始める春の色や生命の表情に敏感な感性が育つのはそのような状況があるからだ。人の感性は豊かさの中に育つばかりではない。欠落の中でこそ多くのものが育っているのではないだろうか。(美術家。挿絵も筆者)=8月7日西日本新聞朝刊に掲載=

連載:地域と美術のすきまのやもり 一覧

おすすめイベント

RECOMMENDED EVENT
Thumb mini 3b164c6bd7
終了間近

セレクション展2024

2024/04/06(土) 〜 2024/04/20(土)
EUREKA/エウレカ

Thumb mini e702b48d9f
終了間近

ブルーナ絵本展

2024/03/30(土) 〜 2024/04/21(日)
福岡三越9階「三越ギャラリー」

Thumb mini e794a50fea

北九州市立美術館 開館50周年記念
「足立美術館所蔵 横山大観展」スライドトーク

2024/04/13(土) 〜 2024/05/02(木)
北九州市立美術館 本館

Thumb mini b156a79869

収蔵作品展
センス・オブ・ワンダー

2024/03/12(火) 〜 2024/05/06(月)
都城市立美術館

Thumb mini 5ac71fa77e

春の特別展「カラーズ ~自然の色のふしぎ展~」

2024/03/16(土) 〜 2024/05/06(月)
北九州市立いのちのたび博物館

他の展覧会・イベントを見る

おすすめ記事

RECOMMENDED ARTICLE
Noimage
連載記事

遮られる世界 パンデミックとアート 椹木野衣<84> 【連載】開かれる世界 異常事態の渦中で 取り戻される日常

Thumb mini ba3135c76e
連載記事

遮られる世界 パンデミックとアート 椹木野衣<83> 【連載】コロナ禍の変化 国内の文化資源だけで 示唆に富んだ企画展も

Noimage
連載記事

遮られる世界 パンデミックとアート 椹木野衣<82> 【連載】ポスト・コロナの行方 深層には恐れや執着  「夢」の推移に注目を

Thumb mini c32a1e9f35
連載記事

遮られる世界 パンデミックとアート 椹木野衣<81> 【連載】政府の新指針 無意識の「風景」に マスクは定着したか

Noimage
連載記事

遮られる世界 パンデミックとアート 椹木野衣<80> 【連載】無形の「副反応」 震災の二次的被害同様 「関連死」はこれから?

特集記事をもっと見る