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【連載】藤浩志 地域と美術のすきまのやもり 28

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藤浩志
2017/11/23
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画用紙に人は入らない​

 パプアニューギニア芸術学校に赴任して2カ月がたち、新入生を対象に立体彫刻の授業を担当することになった。針金と金網を使って芯をつくり、それに紙を貼り付けてゆく。糊(のり)代わりに使うのは小麦粉。ほぼ1カ月かけて人のサイズぐらいの彫刻物をつくる。授業の最初に大きめのスケッチブックと鉛筆を渡し、つくりたい立体物のイメージ図のようなものを描いてもらおうとした。
 緊張した眼差(まなざ)しでスケッチブックに向かい、鉛筆をにぎる。鉛筆の使い方とかデッサンの基本とかは教えていないので、写実的に描く必要はない。下手でも構わない。自由に描くように促す。しかし10人ぐらいいた学生はトイレに消え、寮の自室に消え、誰もいなくなった。次の日、昨日はどうしたかと聞くとマラリアになったという。そしてその日もまた学生たちはマラリアになったのか、消える。そのくせ夕方になるとちゃんと学校の入り口にある空き地でラグビーをはじめている。ちゃんと元気じゃないか。
 仕切りなおして、いろいろな立体物や彫刻の写真を見せて、どんなものでもいいのだと話し、つくるものを描いてもらおうとするが、やはり描いてくれない。そしていなくなる。2週間が過ぎた頃、もう限界だと思い、エスキースなしで自由に作ってもらうことにした。針金や金網などの材料を渡し、使い方を教えて、いきなり立体をつくるように促した。すると驚いた。ずっと考えていたのだろう。皆、ガンガンと手を動かして等身大の弓矢を射る姿の人物や大きな鳥のようなもの、儀式を行う不思議な姿の人物像などを作り始めた。
 なぜスケッチブックのイメージ図を描かなかったのかを聞いてみる。その返事に目から鱗(うろこ)が落ちた。
 「だって、先生、この小さな画用紙にこの人、入らないでしょ」
 立体のものを画用紙の中に、つまり平面で描くことが、記号化して描くような経験が、ないのだ。記号そのものがない。原初的な生活空間にはリアルな実体や気配しか存在しないのだ。(美術家。挿絵も筆者)=8月8日西日本新聞朝刊に掲載=

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