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【連載】藤浩志 地域と美術のすきまのやもり 32

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藤浩志
2017/12/02
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語りと記録が記憶を作る​

 若い時は未熟で体験そのものが新鮮なので記憶にビビッドに突き刺さる。たとえ些細(ささい)なことであっても本人の心を揺るがした大きな事件として周辺の友人たちに語る。語る回数が多いということは、記憶への定着濃度が濃い。それだけ記憶の中での編集作業も繰り返されているということにもなる。例えば1年間で10回ずつ語ったとして、30年たてば300回語ったことになる。記憶というのは無自覚につくられているものなのだ。
 昨日の朝からオーストラリアのシドニーにいる。来年春に行う予定のプロジェクトがあり、打ち合わせのために滞在している。シドニーは30年前、パプアニューギニアに赴任していた頃、休暇中にひとりで旅した。しかし一切記憶がない。どこに行ったのか、何をして過ごしたのか覚えていない。当時のノートを広げてみたが、ノートに見つけたのは幾つかのなんでもない風景の落書きだけ。それを見直すこともなかった。シドニーの記憶が消去されているのだ。どんな体験でも自分との関係が薄れれば、その存在は消える。
 実は最近全く記録しなくなった。一昨年ベトナムで大友良英さんと行ったプロジェクトやシンガポール国立博物館で行った展示、茨城県北芸術祭の銀行跡地での活動や山田うんさんの舞台美術などもかなり大きな出来事で、語りきれないエピソードはたくさんあるが、記録していない。仕事や出来事の数が多すぎて語る暇がない。そして語る友人もいないと言い訳できる。しかし果たして自分の記憶にガツンと突き刺さる新鮮な出来事だっただろうか。たまにFaceBookに書き込んでみるが、告知とか簡単な報告だけがタイムラインを流れて行くだけで、どこか虚(むな)しい。
 以前は誰に読ませるでもない自分のためのノートを1日何度も開き、自分自身の体験と向き合い、妄想も含め記述してきた。あるいは友人と夜な夜な語り合ってきた。記述することや会話することで記憶を増幅させてきたのだ。最近はそういうことを行わなくなってきていて、かなりやばい。(美術家。挿絵も筆者)=8月14日西日本新聞朝刊に掲載=

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