
民藝 MINGEI-美は暮らしのなかにある
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藤浩志 2017/12/23 |
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現実は熱く広く果てしない
感覚としては1万円出すとエアコン付き。エアコン無しだと3千円ぐらいだったので、迷わずエアコン無しのバスにした。エジプト国内のサハラ砂漠の中のシーワというオアシスに向けてのバス。サハラ砂漠はエジプト軍隊が管理している所。そこに入るための許可申請のためにマルサマトルーフという小さな町に一週間近く滞在していたので金銭感覚がすっかりエジプト感覚になっている。あとになって計算してみると実際は800円か2千円かの違いで1200円をケチっただけ。
砂漠の中を走るエアコン無しの長距離バスは失敗だった。窓を開けるとドライヤーのような熱風が吹き込んでくる。窓を閉めると乾燥サウナの我慢大会のよう。現地の人は麻の衣装で体をがばっと覆っていて涼しげ。外気温より体温の方が低いからだろうか。僕と妻だけが短パンにTシャツという無防備な姿。妻は負けず嫌いなので文句を言わずにひたすら我慢している。
砂漠の真ん中の休憩所のようなところでドラム缶に水が溜(た)めてある。現地の人はそれを「手勺(てじゃく)」で飲んでいる。僕も我慢できずに飲んでしまった。ところでトイレというのがない。皆バスから降りて方々に拡(ひろ)がって行きそのまましゃがみこむ。なるほどだからそのような服を着てるのか。ところが僕はズボンとかパンツを脱がなければならない。人目を避けるような場所まで移動しようとするが、草陰があるわけでもなく、砂漠のわずかな起伏があるだけ。その起伏の影を探してどうにか用をたす。それ以前にまず、汗で水分を放出しているためか、トイレに行きたくなることがあまりなかった
風景を見渡し、灼熱(しゃくねつ)の砂漠にいるのだなと実感して、そこが海水で覆われる風景をイメージしてみる。まず無理だ。絶対にイメージできない。東京の小さな事務所の机の上の図面には何度もここに湖を描いてきた。しかし現場はそんな計画とは全く関係なく広大な果てしない砂漠が広がり、そこには人々の生活があった。なんてバカなことをしてきたのだろうと恥ずかしくなった。当たり前のことだが現場に足を運ばずにイメージを描くことは絶対にしたくないと思った。(美術家。挿絵も筆者)=8月24日西日本新聞朝刊に掲載=
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