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【連載】藤浩志 地域と美術のすきまのやもり 41

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藤浩志
2017/12/26
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見えてないはずの記憶​

  シーワは歴史のある古い美しい街だった。その外れにクレオパトラの泉がある。直径が10メートルぐらいの石組の池。その底から水が湧き出ている。周りには緑があり、子ども達が泳いで遊んでいる。水を汲(く)みにくる女性もいる。僕らも手を水につけてオアシスを感じていた。そこにエジプト軍の大佐のような軍人がお供の人を連れて現れる。子ども達は知らぬ間にいなくなり、取り残された僕らはどうしていいやら戸惑った。大佐が話しかけてきた。何しに来た? となまった英語で聞いてくる。シーワの美しい風景を見に来たのだと話す。おもむろに彼は服を脱ぎ、身軽な格好になりいたずらっ子のように泉に飛び込んだ。そしておまえも来いと!
 さすがにそれはできないと拒否していたが、大佐が泉から上がるので力を貸せと手を伸ばしてくる。ならば、と手を出したとたん、ニヤリと笑いながら渾身(こんしん)の力で僕を泉に引っ張った。僕は服のまま泉にドボン。冷たくて気持ちいい。愉快な気持ちになった…のもつかの間、眼が見えない。メガネが泉の中に落ちてしまった。深さは6メートル以上ある。とても潜(もぐ)れない。僕らが騒いでいると知らぬ間に子ども達が集まってきて、僕のメガネを潜って探してくれる。しばらく悪戦苦闘していたが結局透明のフレームのメガネは見つからなかった。
 僕は視力が左右とも0.02と0.04程度の近視と乱視。一番上の0.1が見えないので視力検査のランドルト環に近づいてゆき、1メートルのところでようやく見えるので0.02。
 大佐に泉のすぐ裏に美しい湖があるので見に行こうと誘われ、見えない眼でついてゆく。突然目の前に真っ白の風景が広がった。砂漠は黄色いが、その湖は真っ白の塩の結晶で覆われ永遠に続いていた。その向こうに真っ赤な夕日が沈もうとしている。ぼやけて見えないはずだが、砂漠の果てにたどり着いて見た真っ白に反射する夕日の風景は今もくっきりと記憶に焼き付いている。(美術家。挿絵も筆者)=8月25日西日本新聞朝刊に掲載=

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