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【連載】藤浩志 地域と美術のすきまのやもり 48

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藤浩志
2018/01/18
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社会を変えるには​​​

 1993年の8月6日に鹿児島市内で起こった記録的豪雨は河川の氾濫だけではなく、火山灰土で出来ている鹿児島市内のあちこちで崖崩れを引き起こし、多くの死者を出してしまう。150年前に石橋を設計した石工たちが「山に木を植えよ!」と言い残してきたにもかかわらず、近代化と経済成長は鹿児島市内の危険地域にも宅地開発を広げ、水のコントロールが不能な街を作ってしまった。
 自然災害が起こると、これまでの人間のエゴが行ってきた数々の問題があぶり出され、深く考え直し、環境負荷の少ない自然に寄り添った安全な地域へと向かういい機会だと思うのだが、それはわずかなマイノリティーの発想でしかないようだ。資本主義経済の恩恵に頼り暮らすマジョリティーは自然災害をもチャンスとして捉え、そこに大きな公共事業が動く可能性を見いだす。利益が可視化されるのだろう。
 鹿児島県の激甚災害対策特別緊急事業は上流地域の貯水公園の計画や森林保全、市街地の水路の整備に向かうことなく、江戸時代に作られた文化財の4連、5連の石橋を撤去し、河川を拡幅する工事を決定した。土木工学の専門家や歴史家、芸術家や作家など様々(さまざま)な市民は反対運動を繰り広げた。過激なハンガーストライキや抗議運動を繰り返す活動家も動き始め、作家達もそれぞれの技術とエネルギーを100%以上使って様々な形で動き続けた。
 僕自身もイイスペイスを拠点に、トークイベントやデモンストレーションを行ったり、市民投票、県民投票などのポスターを制作したり、県外で行われる美術展の機会にその活動そのものをモチーフにして外からの力を作ろうとした。美術表現が社会を変えるのではないかと信じていたのだ。しかし現実は自分自身の美術表現の無力さに直面する日々。特に仕組みの内部の利権者からの露骨な嫌がらせも体験する。結局、県の決定を覆せなかった。
 風景は仕組みの外部からでは変わらないということを思い知る。仕組みの内部にぐっと食い込んで、その構造を知ることから始め、内部からしか変わらないのだと理解する。仕組みの内部に組み込むような美術表現もあるのではないかと、新しい大きな課題が見え始める。 (美術家。挿絵も筆者)=2017年9月5日西日本新聞朝刊に掲載=

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