江口寿史展
EGUCHI in ASIA
2024/11/09(土) 〜 2025/01/12(日)
福岡アジア美術館
藤浩志 2018/01/23 |
ある状態を超える瞬間
この連載で以前ヤセ犬について書いた。ボロ雑巾のようなヤセ犬がエネルギーを得て猛然と走りだす姿に感動したという話。木の燃えかすのような炭でさえも、それを駆使して描くうちにググッと木炭の重なりが、人間の表情に変わる瞬間がある。なんだっていい。その素材を超える瞬間がある。絵の具もただの岩や貝を砕いた粉末。それにエネルギーを注ぐことで顔料が絵画になる。バンバン叩(たた)く雑音でもその重なりとリズムが人々の心を震わせる音楽になる。
合唱でも演奏でも彫刻でもダンスでも演技でもスポーツでもなんでも同じだと思う。同じ行為を繰り返しているうちに普通の行為がある状態を超えて違う次元になってしまうことがあるのだ。その瞬間に立ち会うことができる喜びはこの上ない。残念ながら、これは体験した人にしかわからない。鹿児島混声合唱団での体験はまさにそのようなものだった。その喜びを知ってしまうと人はその感動から抜けられなくなる。人生の時間をその感動にかけてしまう。
あれれ? もう50回目? 鹿児島までの活動で終わってしまうの? 合唱三昧(ざんまい)の僕の生活に妻が爆発し、諸々(もろもろ)の理由で鹿児島を離れることになり、ブラジルのサントス、タイのチェンマイへの移住計画に挫折し、101匹のヤセ犬とともに広島の灰塚や岐阜の上石津を旅し、福岡の糸島の深江海岸と前原の養鶏場跡に出会い、家庭から排出される廃棄物をコレクションしはじめ、おもちゃの物々交換の「かえっこ」が福岡の前原、天神、大名、野多目ではじまり、釜山やインドやタイやバングラデッシュやパキスタンやメキシコでぐちゃぐちゃと動き出し、神戸の新開地や大阪の新世界・中之島・此花、東京の秋葉原・池袋、瀬戸内海の直島や豊島、四国の高松や高知、常磐線沿線の取手や水戸やいわき、高崎線の北本や前橋で右往左往し、金沢、新潟、宮城と北上しはじめ、青森の十和田市や秋田での四苦八苦をぐちゃっと書いて行こうと思っていたのに、まだ鹿児島じゃないですかぁ! かっかっかっかぁ~。ごめんなさい。 (美術家。挿絵も筆者)=2017年9月7日西日本新聞朝刊に掲載=
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