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遮られる世界 パンデミックとアート 椹木野衣<2>相次ぐ閉館 「表現の不自由展」以上 有無言わせぬ同調圧力【連載】

2020/04/02 LINE はてなブックマーク facebook Twitter

 

太宰府天満宮から九州国立博物館へ向かうトンネルの入口には、感染症対策での臨時休館を知らせる看板が立つ=3月24日

 新型コロナ・ウイルス対策として安倍首相による不要不急の催しへの自粛要請が発せられると、翌日以降、国立の博物館からポツリポツリと閉まり始め、次第にそれが国立の美術館に及ぶと、そこからは五月雨式に公立、私立を問わず展覧会が期間限定で閉まり始めた。最初は期間限定であったものが再度延期され、なかには途中で復活することなく会期を終えてしまった展覧会も少なくない。そのなかには私自身、再開した際には必ず見に行こうと算段を立てていた貴重な展示も複数、混じっていた。

 これほどの規模で美術館が一斉に閉まったことが、いったい過去にあっただろうか。東日本大震災の直後、首都圏を中心に前代未聞の計画停電が実施されてなお、美術館は開館時間の短縮こそあれども、どこに行っても開いていない、ということはなかった。それに、西日本では日頃と同じように運営されていた。私は新聞や雑誌で複数の展評の連載を持っているが、候補となる展覧会が次々に一覧から外れ、今ではほんの数えるほどになってしまった。首都圏では見ようにも見切れない数の展覧会が当たり前だったから、こんなことはまったくの初めてだ。

 そもそも、美術展を一律に大規模な催しと考えるかどうかは、意見の分かれるところだろう。会期中、ひっきりなしに人が出入りして行列を作るような人気の展覧会であれば、十分に理解できる。ところが、私がふだんから見て回るような現代美術の展覧会は、よほどのことがない限り、会場はすっきりと空いている。主催者としては頭が痛いところだろうが、皮肉にも新型コロナ・ウイルス対策は最初からできているようなものだ。

 演者が声を絞って熱演し、観衆もそれに生々しく反応する芝居や娯楽系のコンサートとは根本的に違っている。美術展では最初から静粛が求められている。過度のおしゃべりは厳禁だし、作品には対面しても人同士が対面することはない。すれ違うにも十分な距離を取りやすく、基本的には立っての鑑賞だから、モノに触れる機会もほとんどない。

 それでも、こぞって中止となり、さしたる異議も聞こえてこないのはなぜなのだろう。背景こそまったく違うとはいえ、昨年、あいちトリエンナーレで「表現の不自由展」が安全を理由に主催者判断で閉められたとき、たちまちにして巻き起こった反対と再開への働きかけを思うと、遠い世界での出来事のようだ。感染防止のうえでは仕方ないのかもしれない。だが、「安全」を理由とする一方的な閉鎖であることに違いはあるまい。それに、美術館内とはいえ、驚くほど狭い会場であった「表現の不自由展」と比べたとき、いま閉まっている美術館の規模や数とでは、社会的な波及力や知的営為・経済的な損失として、比べ物にならないほど落差が大きい。

 やはり、特別に混雑するほどの集客が見込めない現代美術の展覧会では、対策さえ入念に講じれば、継続は可能だったのではないだろうか。見えてくるのは、ウイルスという透明で有毒な存在を口実とすることの有無を言わせぬ圧力だ。あいちトリエンナーレでは、それが意見の異なる人だった。意見とは相対的なものだ。言い換えれば、どんなに反対の立場でも同じヒトだったのだ。他方、今回の一斉休館は絶対的な衛生観念に基づく。そしてこの衛生観念というものほどやっかいなものはない。(椹木野衣)=3月27日付西日本新聞朝刊に掲載=

 

椹木野衣(さわらぎ・のい)
美術評論家、多摩美術大教授。1962年埼玉県生まれ。同志社大卒。著書に「日本・現代・美術」「反アート入門」「後美術論」「震美術論」など。

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