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生誕110年 宇治山哲平にみる やまとごころ <下>

2020/11/28 LINE はてなブックマーク facebook Twitter
大超寺の襖絵(部分)

高みを目指して 襖絵、「華厳」経て晩年の到達

 大分県日田市出身の洋画家、宇治山哲平(1910~86)は、1978年から、「華麗にして森厳、端正にして壮大なる美の世界」を求め、「華厳」シリーズを創作します。曼荼羅(まんだら)の魅力や法隆寺の潅頂幡(かんじょうばん)の感銘、エジプト古代神殿の壁面装飾、友人の密教僧で詩人の八幡黎二との交情などが、この「華厳」を生み出す底流にあったといわれています。そしてもうひとつ、「華厳」を生み出す大きなきっかけになったのが、大超寺の襖絵(ふすまえ)の仕事でした。

 宇治山は、76年に宇治山家の菩提(ぼだい)寺である大超寺(大分県日田市丸の内町)の本堂の襖絵の制作の依頼を受けます。宇治山は快く引き受けましたが、一向に構想が固まりません。

 宇治山が筆を動かし始めるのは、依頼を受けてから5年を経た後でした。その後、下絵に約100日間、本絵は約5カ月を費やし、82年にやっと完成します(公開は84年5月)。依頼を受けてから5年間は構想が固まらず、具体的な制作には着手できなかったのです。

 宇治山は、62年に「絵画シリーズ」を描き始めてから亡くなる86年までの25年間に500点以上、単純計算をすると、1年に20点以上の作品を生み出しています。これと比較しても、大超寺の襖絵が、宇治山にとって産みの苦しみの仕事だったことを窺(うかが)い知ることができます。

 なぜ、それほどまでに、時間がかかったのでしょうか。それは、この仕事は、自身の美意識を表現するだけではなく、多くの民にとっての理想郷、つまり、「極楽浄土」を色と形で現出させる、より高次の取り組みであったためだと思われます。これを実現させるためには、これまでに試みたことや想像をもしなかったような高次の視点を手に入れる必要があったのでしょう。それを手に入れるため、様々に思考を巡らせ、長い年月を積み重ね、ついに、新たな高みを目指す「華厳」シリーズを確立したのです。

 その宇治山が、最晩年にその「華厳」を手放し、新たな「やまとごころ」のシリーズに取り組みます。

「やまとごころ」(1986年、大分県立美術館)
《漲りて四方に》(1984年、広島市現代美術館)

 乳白色の色面に配されたアシンメトリー(非対称)の丸や四角、三角は、ひしめき合ったり、いがみ合ったりするようには見えず、ひとつずつの個を尊重しつつ、穏やかに調和し合っています。「やまとごころ」には、そのような、日本の姿、和の心、人々の暮らしや生き方が映し出されているように感じられます。

 本展では、中央のキャンバスから上下左右に四つのキャンバスが、まさに漲(みなぎ)り出でたような画面に極彩色の色面やかたちが充溢する≪漲りて四方に≫(広島市現代美術館蔵)などをはじめとした「華厳」シリーズの作品のほか、宇治山が最晩年に到達した「やまとごころ」シリーズの数々をご覧いただけます。(大分県立美術館主幹学芸員、宇都宮壽(ひさし))

=(11月21日付西日本新聞朝刊に掲載)=

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