大分県立美術館 開館5周年記念事業
生誕110年 宇治山哲平にみる「やまとごころ」
2020/10/30(金) 〜 2020/11/29(日)
10:00 〜 19:00
大分県立美術館(OPAM)
2020/11/18 |
絵とは何か 具象から色と形の抽象表現へ
1962年、大分県日田市出身の洋画家、宇治山哲平(1910―86)は、それまでの具象的な表現から、色と形だけで表現する「絵画シリーズ」に大きく舵(かじ)を切ります。
「絵画シリーズ」とは、宇治山哲平が62年に発表した≪絵画No.1≫以降に発表されたタイルに「絵画No.」の文言を付した500点以上の抽象絵画の作品群を指すものです(後年に一部、「絵画No.」が記されていないものもあります)。
それ以前にも抽象性の高い作品はありますが、それらは物理的な風景や静物を実際に目にし、対象物を画面に描き出しています。しかし、「絵画シリーズ」は、物理的な対象物を目の前にして描くのではなく、目の前には物理的な手掛かりは何も設けず、真っ白なキャンバスに、作家の中にある思想や哲学を、絵筆を通して、象徴として現出させたものです。作家自らも以下のように語っています。
<今日まで長い美への遍歴をつづけてきた私がいまさらこんなことをいうのも変ですが、改めて「絵とは何か」と自問自答したのです。その結果、絵画表現は「色」と「形」の二要素しかないことを悟ったのです。(中略)私は壮大な秩序とリズムを絵画に夢みています。私がいま制作中の作品にあえて「絵画」と題名したのは、絵画空間のみの持つ造形の響きを打ちたてたいという念願からです。形象と色彩によって抜きさしできない象徴の世界を……と思っています。私の身のほど知らずのはるかなるあまりにもはるかなる祈願でもあるかもしれませんが――。>
このような狙いで、太陽、風、石、山脈、凍土、動植物など、あらゆる自然のリズムや形象を単純な記号のような原形にまで抽象化した「絵画シリーズ」を、宇治山は<宇宙における天体の存在のごときもの>とも表現しています。
会場では、「絵画シリーズ」の記念すべき第1作の≪絵画No.1≫をはじめ、64年から半年間、中東やエジプトなどを旅した後に描いた≪アッシリア幻想(絵画No.86)≫や≪オリエント夜曲≫、後に、サントリーホール(東京・溜池山王)内の壁面を飾るレリーフ作品にも同名のタイトルが付けられた、6メートルを超える大画面の作品≪絵画No.194 響≫(東京国立近代美術館蔵)、金剛流の能を見た時の印象を作品にした≪能・鵺による≫(京都国立近代美術館蔵)、さらには、乳白色の色面が広く画面の大部分を占め、その中に鮮麗な色面を持つ幾何学模様が散在し、「幽遠、清澄、簡潔、優雅な美の世界」を志向した「王朝」シリーズの作品など、「絵画シリーズ」の代表作の数々をご覧いただきます。(大分県立美術館主幹学芸員、宇都宮壽(ひさし))
=(11月14日付西日本新聞朝刊に掲載)=
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