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ミサキア記のタンボウ記 進撃の巨人展 物語とともに最終章へ 

2020/12/10 LINE はてなブックマーク facebook Twitter
原画や複製原画も多く展示されている

 まさに、「進撃」を続けた11年間だった。

 「進撃の巨人」は、別冊少年マガジンで2009年から連載を開始した、巨人と人間との戦いを描いた諫山創の漫画だ。総発行部数は1億部を突破し、アニメ化、実写映画化もされて社会現象となった。実に45万人を動員した「進撃の巨人展」から5年、連載も遂(つい)に最終章に突入した。物語の核心に迫る「進撃の巨人展FINAL」が、いよいよ福岡のファンの前に全貌を現わす。

 案内チラシには、「圧倒的な力を持つ巨人とそれに抗(あらが)う人間たちの戦いを描いたダークファンタジーバトル漫画」とあるが、その説明は、物語世界への理解を狭めてしまうだろう。巨人という「圧倒的な理不尽」を前にしての、人間たちの相克こそがメインテーマだ。血の継承、差別と偏見、歴史認識など、現代社会のひずみが物語世界に投影され、我々(われわれ)の心に「残酷に」突き刺さる。

 物語には巨大な「壁」が存在し、それによって世界は二分されている。展示のルートもまた二つに分かれ、壁の「外」か「中」かの選択を迫られる。額縁や文字の色は、青は「壁の外」、赤は「壁の中」からの視点。そして、二つの世界が交わった場所に記された「人類を救うため」の言葉が重たい。同じ言葉でありながら、それぞれが思い描く未来は真逆(まぎゃく)だ。

 たった一つの「真実」「正義」と信じて読み進めたストーリーが、まったく別の「真実」「正義」によって上書きされ、否定される。物語をリアルタイムで読み進めた時に感じた驚き、興奮、カタルシスが再体験できる仕掛けだ。

 ジオラマシアター「巨人対戦」では、作者の描いた「巨人」がそのまま巨大化し、特殊技術によって動きだす、「2.5次元」の世界が堪能できる。作中にも登場した、影絵の「巨人」を使った戦意高揚の劇中に本物の「巨人」が襲いかかる名シーン。壁を突き破って出現する巨人の迫力は、思わず身構えるほどだ。

 その他にも、物語に登場したキーアイテムが、戦いで傷ついた形のままに展示され、登場人物たちの印象的なシーンの原画(複製)の数々が並ぶ。福岡会場限定で初公開される生原画もあり、紙面では味わえないリアルな筆致やホワイト使いを堪能しよう。

 最後のコーナーは、作者のネームに四方をぐるりと取り囲まれた「物語を創ったもの」。インタビュー映像も流され、作者の脳内世界に入り込んだ気分になる。当初設定との違いや、コマ割りの変更で、まったく違う完成形となった絵も多い。作者を見出した担当編集者「バック」からの指示やツッコミも、物語世界がどう作られていったかを知る手がかりとなる。荒削りなデッサンから、アイデアが浮かぶまでの苦悩や、浮かんだ瞬間の興奮までを読み取る事ができるはずだ。

 関連企画として、福岡タワーでは大迫力サイズの巨人の襲来や、調査兵団との戦いを体感できる。作者の故郷の大分県日田市では、ダムを「壁」に見立てた銅像が立つ。あわせて訪れたい。

 今回の展覧会は「FINAL」と題されている。もちろん、展覧会としてのファイナルではあるが、これから結末にむけて進撃するストーリーの「終わり」を、作者だけではなく、関わった者それぞれが受け止めるための儀式でもある。すべての登場人物が幸せになる「選択」は存在しない。「だって世界は、こんなにも残酷じゃないか」という作中のセリフを噛(か)みしめながら、共に「最後」を迎える。それが、進撃に「心臓を捧げた」者たちの流儀であり、責務だ。(三崎亜記)

=(12月5日付西日本新聞朝刊に掲載)=


三崎 亜記(みさき・あき)
小説家。1970年、福岡県久留米市生まれ。久留米市役所に勤めていた2005年、小説すばる新人賞受賞作「となり町戦争」でデビュー。同作は直木賞にもノミネート。福岡市在住。

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