九州、山口エリアの展覧会情報&
アートカルチャーWEBマガジン

ARTNE ›  FEATURE ›  コラム ›  絵に宿る風土 大地の力展④ 作品の奥に戦争の影

絵に宿る風土 大地の力展④ 作品の奥に戦争の影

2021/11/22 LINE はてなブックマーク facebook Twitter

 戦争を直接描いたわけではないが、戦争の存在を意識し、捉え直さずにはいられない作品2点。

 世界恐慌の翌年、満州事変の前年に描かれた中村研一の「弟妹集う」。瀟洒(しょうしゃ)な空間で語らい、踊る家族たちの視線は、誰ひとりとして通い合っていない。複数のレンズの視点を合成して1枚に落とし込んだような、奇妙な均衡を保ちながら、どこか不穏さも漂う。

中村研一「弟妹集う」(1930年、住友クラブ蔵)

 「中村はその後、従軍画家として多くの戦争画を残した。どうしてもそのことを重ねてしまう。サスペンスを感じる絵」と佐々木奈美子学芸員は語る。

 日本のシュールレアリスムの旗手として海外にも紹介された大塚耕二の「出発」は、叙情性の感じられる柔らかさが特徴。四隅をピンで留められた紙から、切り絵の蝶が飛び出し、空へと浮かび上がる。

大塚耕二「出発」(1936年、熊本県立美術館蔵)

 二・二六事件の年の制作。天空へ軽やかにひらりと飛び立つ、自由への希求も感じさせる。「新傾向の絵を描こう、と肩肘を張るのではなく、ただただ、絵を描いている。一度知ったら忘れられない作品」。大塚は1945年、フィリピン・ルソン島で戦死した。

(担当:大矢和世)

****

 久留米市美術館で、開館5周年記念展「九州洋画Ⅱ 大地の力 Black Spirytus」(西日本新聞社など主催)が開かれている。12月12日まで。「九州ゆかりの近代洋画」を軸にコレクションを構築する同館。特に風土を反映した力強い表現に光を当てる企画展だ。黒田清輝、坂本繁二郎といった巨匠から気鋭の若手まで幅広い作品78点が並ぶ。筆跡に宿った迫力の一端を届けたい。

=(11月19日付西日本新聞朝刊筑後版に掲載)=

おすすめイベント

RECOMMENDED EVENT
Thumb mini e794a50fea
終了間近

北九州市立美術館 開館50周年記念
「足立美術館所蔵 横山大観展」スライドトーク

2024/04/13(土) 〜 2024/05/02(木)
北九州市立美術館 本館

Thumb mini b156a79869

収蔵作品展
センス・オブ・ワンダー

2024/03/12(火) 〜 2024/05/06(月)
都城市立美術館

Thumb mini 5ac71fa77e

春の特別展「カラーズ ~自然の色のふしぎ展~」

2024/03/16(土) 〜 2024/05/06(月)
北九州市立いのちのたび博物館

Thumb mini d9d6db5602

特別企画展
オードリー・ヘプバーン 写真展

2024/03/20(水) 〜 2024/05/06(月)
鹿児島市立美術館

Thumb mini fb2248f7fb

かみよりつぐかたち -紙縒継像-
新聞紙から生まれる動物たち

2024/03/23(土) 〜 2024/05/06(月)
みやざきアートセンター

他の展覧会・イベントを見る

おすすめ記事

RECOMMENDED ARTICLE
Thumb mini 85b67c934f
コラム

絵に宿る風土 大地の力展③ 呼び覚ます触感

Thumb mini 26d0a8284f
コラム

絵に宿る風土 大地の力展② 追憶のヤマ追い求め

Thumb mini afaf29409f
コラム

絵に宿る風土 大地の力展① 揺るぎない眼裏の光

Thumb mini 93100dd95b
連載記事

「九州洋画Ⅱ:大地の力」展に寄せて【学芸員コラム】 第3回「パリの画学生」

Thumb mini 18a8754432
連載記事

「九州洋画Ⅱ:大地の力」展に寄せて【学芸員コラム】 第2回「坂本繁二郎、決別の3枚」

特集記事をもっと見る