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武勇 教養併せ持つ「独眼竜 伊達政宗」展 福岡市博物館で 作家・加来耕三さん紹介【コラム】

2022/11/08 LINE はてなブックマーク facebook Twitter

 東北の雄と呼ばれた戦国大名、伊達政宗(1567~1636)をテーマにした特別展「独眼竜 伊達政宗」(西日本新聞社など主催)が、福岡市早良区百道浜の市博物館で開かれている。愛用の甲冑(かっちゅう)など約100点の展示品を通し、初代仙台藩主の生涯に迫る。政宗に関する著書があり、開幕に合わせて来場した作家で歴史家の加来耕三さんに、政宗の魅力と展覧会の見どころを聞いた。
 

伊達政宗が愛用した「黒漆五枚胴具足」と加来耕三さん

 -福岡の黒田長政や熊本の加藤清正のように、ご当地・仙台で政宗は支持されているか。
 「仙台のみならず東北全域で愛されています。担当した歴史番組で『一番好きな歴史上の人物』を調査したとき、政宗は東北全県で圧倒的な人気でした。1人で領地を広げ、遅れていた東北の文化水準を一気に引き上げ、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康と渡り合ったスケールの大きさが支持される理由でしょう」

 -歴代のNHK大河ドラマで「独眼竜政宗」(1987年)の平均視聴率がトップだったように、全国区でも人気だ。
 「独眼竜と呼ばれたように右目の視力を失ったハンディがありながら生涯野望を持ち続け、70歳近くまで活躍した。武勇に加え、深い知識や教養を持ち合わせた点も魅力なのでしょう」

■文禄の役で九州入り
 -とはいえ、政宗と九州との関係は深くはない。
 「唯一、九州を訪れたのは名護屋(佐賀県唐津市)に布陣した文禄の役。朝鮮から母に宛てた手紙も展示されています。政宗にとって九州は一番遠い土地でした。ただ、九州は各地に秀でた戦国武将がいました。もし政宗と合戦していたら、と空想するのは楽しいかもしれません」

 -会場で注目したい展示品は。
 「まず『伊達政宗画像』(狩野安信筆)です。独眼竜政宗といえば右目の眼帯がトレードマークですが、この肖像画には描かれていません。そもそも江戸時代の絵に眼帯を描いたものはありません。政宗は眼帯をしておらず、後世の創作ですから。私たちがイメージする政宗と、政宗の実像との違いを教える一枚です」
 

伊達政宗画像。眼帯は描かれていない

■長政と宗茂は同級生
 -政宗らしい甲冑も出品されている。
 「『黒漆五枚胴具足(くろうるしごまいどうぐそく)』ですね。巨大な三日月の前立の兜(かぶと)と、堅牢(けんろう)かつ重厚な鎧(よろい)が政宗の武勇を象徴しているようです。本展の目玉の一つは、この甲冑と福岡藩主黒田長政、柳川藩主立花宗茂の甲冑が同時に展示されていること。この3人、1567~68年に生まれたいわば“同級生”。それぞれの甲冑は実用的であったり、華美であったりと性格を映しているようです。実際に着用した武将の姿を思い浮かべながら、比較することができます」

会場には伊達政宗愛用の刀剣も並ぶ

■今ならSNSを駆使
 -書状や歌を書いた懐紙などもある。
 「政宗は実に筆まめな人でした。出会った人には必ず手紙を書いて付き合いを深めていきました。今なら交流サイト(SNS)を通じて、いろんな人と頻繁にコミュニケーションをしていたでしょう。秀吉主催の花見で詠んだ和歌を記した『吉野懐紙』など、政宗の多才ぶりを示す史料も並んでいます」

武将や公家が詠んだ和歌を収めた「吉野懐紙」。政宗も歌を残している

 

慶長遣欧使節関係資料(国宝)のうち「十字架像」(左)と「十字架及びメダイ」

 -支倉常長らによる慶長遣欧使節の史料もある。
 「国内のみならず、欧州にも関心を持った政宗の視野の広さを物語ります。史料からは支倉らの困難な旅が伝わります。だけど、通商交渉が成功し欧州と交易していたら日本は大きく変わっただろう―。そんな夢を見させてくれるのが政宗なんです。ぜひ、会場でお気に入りの展示品を見つけてください」
(塩田芳久)

=(11月5日付西日本新聞朝刊に掲載)=

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