九州、山口エリアの展覧会情報&
アートカルチャーWEBマガジン

ARTNE ›  FEATURE ›  コラム ›  ふたつの旅 青木繁×坂本繁二郎 <3>   外の世界へ挑む決意 久留米市美術館【コラム】

ふたつの旅 青木繁×坂本繁二郎 <3>   外の世界へ挑む決意 久留米市美術館【コラム】

2022/12/16 LINE はてなブックマーク facebook Twitter
坂本繁二郎「海岸の牛」(1914年、北九州市立美術館蔵)
坂本繁二郎「馬」(1925年、個人蔵)

 坂本繁二郎は東京で活動していた大正時代、牛をよく描いた。絵を見た友人らは、牛を坂本の“自画像”だと捉えていたという。

 32歳で第1回二科展に出した「海岸の牛」は房総半島とみられる海岸を背に、くいにつながれた牛を描く。同じ房総で「海の幸」を描いた青木繁の死から3年後のこと。晩年、「まるで牛のように、牛を描き続けた」と言葉を残した坂本は、静かな海岸にどこか窮屈そうにたたずむ牛に、どんな思いを込めたのだろう。

 1907年の東京勧業博覧会で青木の「わだつみのいろこの宮」より高評価を得た「大島の一部」にも、情景として牛を描いた。12年発表作品からは牛そのものを大きく描き、新聞に芸術記事を連載していた夏目漱石の目にもとまった。渡仏前年の20年に発表したモノクロ調の「牛」は視線の先に柵があり、外の世界へと挑む自らの決意を重ねたようにも受け取れる。

 「海岸の牛」はどうか。久留米市美術館の森山秀子副館長は「実は、牛の右側にくいを描こうとした跡がある」という。結果的にくいは牛の視線の先に斜めに立ち、より強調された感がある。自信を付けてきた坂本がくいから解き放たれ、青木を超えんとする気概を重ねたのでは…と解釈するのは、飛躍だろうか。

 帰国の翌年、二科展に「馬」を出品。留学中に得た淡く柔らかい色彩表現で、その後の作品はさらに華やぎを増す。ただ、坂本は決して西洋の作風のみに傾倒しない。経験を昇華させ、人生の深まりに呼応するように、画業を成熟させる。

=(12月16日付西日本新聞朝刊に掲載)=

===================================================

生誕140年 ふたつの旅 青木繁×坂本繁二郎 来年1月22日まで、久留米市野中町の市美術館=0942(39)1131。西日本新聞社など主催。一般1000円、65歳以上700円、大学生500円。高校生以下無料。

おすすめイベント

RECOMMENDED EVENT
Thumb mini ab6b97457a

マスターロード博多人形絵付け体験ワークショップ

2025/07/19(土)
福岡市美術館 1階 アートスタジオ

Thumb mini 3c8a64c989

つきなみ講座7月 松永耳庵 遺愛の茶道具

2025/07/19(土)
福岡市美術館 1階 レクチャールーム

Thumb mini 5bf1541646
終了間近

特別展
花の宮廷画家ルドゥーテ

2025/05/31(土) 〜 2025/07/21(月)
下関市立美術館

Thumb mini d7a446a03c
終了間近

開館25周年記念
珍獣、瑞獣、怪獣! ―シンボルの造形美

2025/06/07(土) 〜 2025/07/21(月)
出光美術館(門司)

Thumb mini 238af09937
終了間近

葬送のフリーレン展 ~冒険の終わりから始まる物語~

2025/06/22(日) 〜 2025/07/21(月)
福岡三越9階「三越ギャラリー」

他の展覧会・イベントを見る

おすすめ記事

RECOMMENDED ARTICLE
Thumb mini 1d58419b13
コラム

ふたつの旅 青木繁×坂本繁二郎 <2>   圧倒的な自負と才能 久留米市美術館【コラム】

Thumb mini fffeccb88f
コラム

ふたつの旅 青木繁×坂本繁二郎 <1>   叙情と幻想の好対照 久留米市美術館【コラム】

Thumb mini cdfa749b0d
コラム

【コラム】Hello Kitty展 福岡市美術館 ファンに寄り添い半世紀 歴代グッズ、特製イラストも

Thumb mini 9a7d771217
コラム

【コラム】九博だよ お宝集合<上>時代を代表する二つの鐘

Thumb mini a2f54a4246
コラム

【コラム】特別展「九州の国宝 きゅーはくのたから」 注目の〝お宝〟<下>国宝「日光一文字」「圧切長谷部」 官兵衛・信長と縁

特集記事をもっと見る