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ふたつの旅 青木繁×坂本繁二郎 <4>   時を超え交わる盟友 久留米市美術館【コラム】

2022/12/20 LINE はてなブックマーク facebook Twitter
青木繁「漁夫挽帰」(1908年、ウッドワン美術館蔵)
坂本繁二郎「能面と鼓の胴」(1962年、石橋財団アーティゾン美術館蔵)

 青木繁と坂本繁二郎は、時に同じ題材に違う世界を見る。
 
 例えば山。青年期に青木が描いた峻厳(しゅんげん)な「神塞妙義」と、坂本が田園風景ごと描き出した「水縄山風景」を例示して福岡県久留米市美術館の森山秀子副館長は「青木はそこに神々を、坂本は住まう人々の姿を見ている」と解説する。
 
 生きた長さも好んだ題材も異なる2人。盟友なのに水と油のようにも見える。だが時をたがえて共通の題材を扱っている。能面だ。
 
 青木は学生時代、現在の東京国立博物館に足しげく通って能面に造形を学び、神話画を描く足がかりとした。坂本は、30代で見た能表現の感動を心に温め続け、還暦を過ぎてから集大成として能面の油彩画を次々に発表する。
 
 坂本が描いた能面は、能舞台さながらに無駄のない構図の中に陰り、輝き、そして静かにたたずむ。だからなのか、静物画でありながら、どこか人の存在を感じさせる。
 
 2人の“旅”は、見る者に大画面で訴えかける壁画でも交わる。
 
 坂本は、唯一の戦争画「肉弾三勇士」など3作品を受注制作した。一方、壁画に関心があったのか下絵を残している青木は、中央画壇を離れて放浪しており、依頼はついに舞い込まなかった。それでも洋館を飾る大作として注文を受けた横約1.8メートルの「漁夫晩帰」には、家族らしい群像を平面的に描くなど壁画の意識をにじませた。
 
 生涯で最大級の作品を描き上げた青木。能面の連作を描き終えた坂本。2人の“旅”は終焉(しゅうえん)へ向かう。

=(12月17日付西日本新聞朝刊に掲載)=

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生誕140年 ふたつの旅 青木繁×坂本繁二郎 来年1月22日まで、久留米市野中町の市美術館=0942(39)1131。西日本新聞社など主催。一般1000円、65歳以上700円、大学生500円。高校生以下無料。

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