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「生誕140年 ふたつの旅 青木繁×坂本繁二郎 」展【学芸員コラム】とことん比べてみる(その4)二人の絶筆

2023/01/16 LINE はてなブックマーク facebook Twitter

 久留米市美術館では、同市出身の洋画家、青木繁(1882~1911)と坂本繁二郎(1882~1969)の画業をたどる「生誕140年 ふたつの旅 青木繁×坂本繁二郎」を開催中です。66年ぶりの「二人展」では約250点の作品を通して、目指す方向も性格も、生きた時代の長さも異なる二人の「旅」を、時に交差させながらひもときます。
 
 本連載では、久留米市美術館の方々から、4回にわたって見どころを紹介していただきます。

1回目はこちら
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3回目はこちら

*****

 青木は朝日、坂本は月、と対照的な絶筆を遺した二人。「ふたつの旅」を締めくくる、それぞれの絶筆を比べてみたいと思います。

青木繁《朝日(絶筆)》1910年
佐賀県立小城高等学校同窓会黄城会蔵(佐賀県立美術館寄託)佐賀県重要文化財

 青木の《朝日(絶筆)》には、あたりを煌々と照らしながら、雲に吸い込まれていくように昇っていく朝日が描かれています。うねる波が朝の光を受けて、さまざまな表情を見せる様子が、色彩豊かに表現されています。千葉県館山市の布良海岸を訪れた際に制作した《海の幸》(1904年、石橋財団アーティゾン美術館蔵)をはじめとして、青木の作品には「海」を題材にしたものが多くあります。本作は、海を丁寧に描きながらも水平線を低く置くことで、上へ上へと昇る朝日の姿が主役となっています。晩年、生活に窮する中で画家としての再起を図ろうと奮闘した青木の心情が、反映されているのかもしれません。青木の死後、坂本は「青木ほどの色彩感覚と写実力は、その後もお目にかからないぐらい」とその才能を認め、惜しみましたが、その色彩感覚と写実力は本作でも発揮されています。

坂本繁二郎《幽光》1969年 石橋財団アーティゾン美術館蔵

 一方、坂本の《幽光》には、かすかに光を放つ、静かに佇む月が描かれています。傍に寄り添うようにちぎれた雲が浮かんでおり、画面下方に月を丸く囲むように揺らめいているのは、櫨の木々でしょうか。坂本の描く月は満月が多い中、本作では月が雲に隠れています。1964年、82歳となった坂本は月を描き始めます。視力の衰えもあり、外出して実際にモティーフを見て描くということが難しくなった坂本の制作は、身近にある静物や窓から見える、もしくは記憶の中の景色が中心となります。夜中に目が覚めたとき、思いがけず心惹かれる月を見かけると頭の中で写生をする、と坂本は語っています。月の絵には、描いた絵を「私」そのものだと述べる坂本の、穏やかで満ち足りた心境が、表れているのかもしれません。

原口花恵(久留米市美術館)

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