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「芥川龍之介と美の世界 二人の先達─夏目漱石、菅虎雄 」展【学芸員コラム】(その2)漱石、芥川 ‥そして第三の男、菅虎雄(二)

2023/12/18 LINE はてなブックマーク facebook Twitter

 久留米市美術館では、大正時代を象徴する作家・芥川龍之介(1892-1927)、明治の文豪・夏目漱石(1867-1916)、漱石の古い親友で、芥川にとっては高校時代のドイツ語の先生であった菅虎雄(久留米出身、1864-1943)も含めた三人の関係に注目する「芥川龍之介と美の世界 二人の先達─夏目漱石、菅虎雄 」を開催中です。
 禅や書に精通した菅虎雄と二人の文豪との交流を辿りつつ、芥川の美意識の形成に深くかかわる原稿や書籍、美術作品などを通して、三人の知られざる関係を解き明かします。
 
 本連載では、久留米市美術館の佐々木奈美子学芸員から、3回にわたって見どころを紹介していただきます。

1回目はこちら

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 菅虎雄の名は、夏目漱石関連の資料や年表には結構な頻度で出てきます。漱石より三歳年長の学生時代からの友人で、青春の悩みから就職の世話、留学後に東京での新生活を整えることまで、漱石の転機、ピンチに必ずといってほど登場し、世話を焼いています。松山の中学や熊本五高の教職の口も菅の紹介によるものでした。ひょっとすると『坊っちゃん』も『草枕』も菅がいなければ今と違った内容になっていたか、あるいは、存在すらしなかったかもしれません。

 一方、芥川は一高の生徒として菅と出会います。卒業後、芥川の方から手紙を書き、鎌倉の菅宅を訪問することになります。はじめは、ひょっとしたら憧れの漱石への仲介を期待していたのかもしれません。というのも、少年時代から芥川は漱石を愛読し、回覧誌に「我輩も犬である」という短編を書くほどのファンだったからです。しかし、実際に菅の自宅を訪ねて話を聞き、古い法帖を見せてもらうなどする内に、その鑑識眼や見識に圧倒されてしまいます。当時はまだ外国語を教えられる日本人教師はごくわずかでしたが、芥川は「ドイツ語なんてこの人の教養の一部にすぎないのかも」と感じます。ここから芥川と菅との交流が始まります。

 菅を鎌倉に訪ねた二年後、芥川は先輩の紹介で初めて漱石山房を訪れます。初対面の時に二人がどんな話をしたのか、詳細は想像するしかありませんが、もしかしたら芥川は自己紹介として、菅虎雄に一高でドイツ語をならったことや鎌倉の自宅を訪ねて色々と話を聞いたことを語ったのではないでしょうか。菅に書や禅の蘊蓄を聞いて家に泊めてもらったと話す若者の姿に、漱石が若き日の自分を重ねたとしても不思議ではありません。

芥川龍之介「葬儀の記」原稿 1916年 山梨県立文学館 *2期

 芥川の「葬儀記」は漱石の通夜から葬儀までを題材にしています。その時も、また一周忌の時も菅と芥川は近くにいました。またある時は田端の自宅に菅を誘い、漱石筆の扁額「風月相知」を見せました。すると菅は「夏目にしては傑作だ」と言ったとか。芥川の漱石は、菅にとっては“夏目金之助”でした。その付き合いに寡黙を通した菅と、繰り返し語り続けた芥川。確かにそこには三人がいました。漱石が没した翌年、芥川は最初の本『羅生門』を出版します。装幀は漱石の『漾虚集』にならい、題字は菅虎雄に依頼しました。

菅虎雄『羅生門』題字 1917年 山梨県立文学館 *3期
夏目漱石『漾虚集』1906年5月 大倉書店・服部書店 新宿区立漱石山房記念館 *3期

※本展出品の書簡、原稿類は作品保護のため3期に分けて展示しています。

佐々木奈美子(久留米市美術館)

※その3に続きます

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