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文学を描く 美術を読む 芥川と漱石、菅虎雄 <5> 相互刺激で新たな芸術 久留米市美術館【コラム】

2023/12/25 LINE はてなブックマーク facebook Twitter

 優れた文学は、創作意欲を刺激してやまない。

 夏目漱石の長編を絵画化した「草枕絵巻」は、新興大和絵を提唱した日本画家松岡映丘が、門下生と共に総勢27人で描いた。「絵巻になり得る近代文学は、美的意識と時代を織り込んだ『草枕』以外ない。人間の悲しみも苦しみも『美』として描く、漱石の意図が画家たちにはまった」。熊本大五高記念館客員准教授で草枕交流館(熊本県玉名市)の村田由美館長は語る。

草枕絵巻 山本麻佐之(丘人)「水の上のオフェリア」(奈良国立博物館蔵 1月3日より展示)

 小天温泉(同市)が舞台のモデルとなった草枕の主人公は画工鴨居玲「蜘蛛の糸」(石川県立美術館蔵) 。<住みにくい所をどれほどか、寛容(くつろげ)て、束(つか)の間の命を、束の間でも住みよくせねばならぬ。ここに詩人という天職が出来て、ここに画家という使命が降る>。文学と美術を同志として漱石はとらえる。

鴨居玲「蜘蛛の糸」(石川県立美術館蔵) 

 画工は、ミレーが「ハムレット」の場面を描いた代表作「オフィーリア」を<不愉快>と感じ、自分ならいかに描けば成功するかと案じる。思索は一級の美術論にもなっている。「実は(ロンドンで同作を見た)漱石自身の不快さも重なっているが、それすらも文学的に昇華した」。そしてその小説が、いかに新時代の日本画を見いだすかと模索する画家の意欲をかき立てたのだ。

 一方、鴨居玲(1928~85)は金沢市出身で本籍地が長崎県平戸市。陰鬱(いんうつ)さをまとう酔いどれ、老人、道化師などを描き、人間の深淵(しんえん)を見つめようとした。

 鴨居が自死の3年前に描いた「蜘蛛(くも)の糸」は芥川龍之介の短編が画題。生涯精神不調の波と闘った画家は、糸をつかもうともがく犍陀多(かんだた)に何を投影したのか。

 文学と美術。相互に刺激し、新たな芸術が生まれる。漱石、菅虎雄、芥川。単なる交流にとどまらない、創造の奮闘の軌跡である。
 (久留米総局・大矢和世が担当しました)
                                 =おわり

=(12月20日付西日本新聞朝刊に掲載)=

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芥川龍之介と美の世界 二人の先達─夏目漱石、菅虎雄 2024年1月28日(日)まで、久留米市野中町の市美術館=0942(39)1131。西日本新聞社など主催。一般1200円、65歳以上900円、大学生600円。高校生以下無料。

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