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文学を描く 美術を読む 芥川と漱石、菅虎雄 <3> 小説家が突く絵の本質 久留米市美術館【コラム】

2023/12/22 LINE はてなブックマーク facebook Twitter

 筑後にゆかりがある画家、坂本繁二郎と古賀春江。彼らの作品にも、小説家がその本質を見抜いた瞬間がある。

 坂本は盟友青木繁を亡くした翌年の1912年、当時最高峰の官設公募美術展「文展」に「うすれ日」を出品した。坂本にとって重要なモチーフとなる牛を描いたものだ。この絵を見た夏目漱石は美術評論で「牛は沈んでゐる。もつと鋭く云へば、何か考へてゐる」と高く評価し、坂本の出世作となった。

坂本繁二郎「牛」(新潟県立近代美術館・万代島美術館蔵)

 久留米市美術館の森山秀子副館長は「坂本は描きあぐねてつらい時期だった。『理解者を得たようでうれしかった』と話し、その後数年間、牛を描き続けることになる」。今回の展示作品も、そんな時期の一作。

 古賀の「サーカスの景」は、38歳で亡くなった彼の遺作。古賀と親交を結んだ川端康成は、随筆「末期の眼」で、最晩年の芥川の作品や遺書を引きながら<すぐれた芸術家はその作品に死を予告してゐることが、あまりにしばしばである>とし、サーカスの景について筆を進める。
 

古賀春江「サーカスの景」(神奈川県立近代美術館蔵)

 <画布と格闘するかのやうに、掌(てのひら)で狂暴(きょうぼう)に塗りなぐつて(略)さうして出来上がつた絵が、どうしてあんなにしいんと静かなのか>。自分で署名も入れられないほど悪化していた古賀の病状を知る川端は、感嘆してこうつづる。<絵は解脱の道であつたにちがひないが、また堕地獄の道であつたかもしれない。天恵の芸術的才能とは、業のやうなものである>

=(12月18日付西日本新聞朝刊に掲載)=

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芥川龍之介と美の世界 二人の先達─夏目漱石、菅虎雄 2024年1月28日(日)まで、久留米市野中町の市美術館=0942(39)1131。西日本新聞社など主催。一般1200円、65歳以上900円、大学生600円。高校生以下無料。

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