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伊藤高志さんと新しい映画(人)〔寄稿:福岡市総合図書館フィルムアーカイヴ 学芸員・杉原永純〕

2025/04/18 LINE はてなブックマーク facebook Twitter

今春、福岡が生んだ実験映画作家・伊藤高志氏の創作をたどる展覧会・上映会が、福岡県内ふたつの会場、田川市美術館、福岡市総合図書館映像ホール・シネラで企画されています。
福岡市総合図書館映像ホール・シネラの学芸員・杉原永純さんより寄稿いただきました。

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 福岡市総合図書館に多くの作品を収蔵している縁の深い映画作家である伊藤高志さんの新作を5月にシネラで上映します。新作『遠い声』を昨年見て、来場していた伊藤さんにすぐその場で「シネラで上映したい」とお伝えしました。

遠い声 監督:伊藤高志  

 1956年福岡市生まれの伊藤高志さんは、映画好きの父の影響で映画が大好きになり、九州芸術工科大学(現・九州大学芸術工学部)在学中に、当時教授であった実験映画の巨匠・松本俊夫を驚かせたい!というモチベーションで制作した『SPACY』(1981)が世界中で高い評価を得て、一挙に注目を浴びます。その後もコンスタントに作品を発表し続け、2024年にはアメリカのアカデミー・フィルム・アーカイブにて「Takashi Ito: Animating Spirits」と題された特集上映が行われました。

 伊藤さんの映画は実験映画と括られることが多いです。熱心なファンも多いジャンルですが、先鋭的な表現とか実験とかいうと身構えてしまう人もいるかもしれません。
 実験的な映画を見る楽しみのひとつは、見ると、感覚が研ぎ澄まされることです。上映が終わって外に出たときに、映画を見る前とは風景が違って見える、見えなかったことが見えてくる。今回の特集上映で、そうした経験を生んでくれる映画の魅力に浸ってもらえたらうれしいです。5月3日には、一緒に特集をし、ご登壇も快諾してくださった七里圭さんを招いての対談イベントを催します。気になった作品をひとつでも、リラックスしてご覧になってみてください。 

 伊藤高志さんのご紹介をもう少し付け加えます。この1年ほどシネラで仕事してきただけでも、伊藤さんの教え子という人たちに何人も会う機会がありました。ひとり挙げるとすると、福岡出身の米倉伸さんは、京都芸術大学で伊藤高志さんが指導教官だったとのこと。その後、米倉さんは昨年公開した話題作『ナミビアの砂漠』(2024/山中瑶子監督)や、現在全国公開中の『BAUS 映画から船出した映画館』(2024/甫木元空監督)の撮影を担当するなど、実力派の若手映画撮影者として活躍されています。
 伊藤さんの教えを請うた人たちに共通するのは、本当に楽しそうに伊藤さんについて話すことです。新しい驚きを常に発見しようとしている伊藤さんが、新鮮な眼をもつ若き映画人たちに慕われる。福岡でかつて松本俊夫さんの薫陶を受けた伊藤さんも、きっとそうだったのだろうと想像します。そして伊藤さんが、米倉さんのような次の世代の映画人たちに影響を与え、今また新しい映画が生まれてきている。この連鎖に、心が踊ります。

(福岡市総合図書館フィルムアーカイヴ 学芸員・杉原永純)

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企画上映 アーカイヴ・コレクション Part 19
七里圭「ピアニストを待ちながら」
伊藤高志「遠い声」 +収蔵作品集

会期:5月3日(土祝)~5月11日(日)、5月17日(土)、5月24日(土)
※5月7日(水)は休館日/5月8日(木)は休映日
観覧料: 
大人600円、高大生500円、小中学生400円、福岡市在住の65歳以上の方・「わたすクラブ」会員・障がい者の方および介護者の方1名=300円(要証明書・会員証原本提示)

映画「ピアニストを待ちながら」のみ特別料金: 
一般1400円、学生(大学生・高校生・中学生・小学生)および各種割引700円
※以下の方が割引となります (要証明書・会員証原本提示)
①福岡市在住の65歳以上の方 ②「わたすクラブ」会員 ③障がい者の方および介護者の方1名

■5月3日(土祝)14:00~
「ピアニストを待ちながら」 上映後トークイベント

 ゲスト(敬称略):七里圭(映画監督)、伊藤高志(映像作家)
 ※トークイベントのみの参加は無料

問い合わせ:TEL  092-852-0608(福岡市総合図書館 映像ホール・シネラ))
福岡市総合図書館映像ホール・シネラ公式HPはこちら

 

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