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『ドリス・ヴァン・ノッテン ファブリックと花を愛する男』【映画紹介コラム】

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大迫章代
2018/01/12
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みなさんは、ドリス・ヴァン・ノッテンというデザイナー、そしてブランドをご存知だろうか。

世界中に熱狂的なファンを持つ、ベルギーの有名ファッションデザイナー。広告は一切出さず、自己資金だけで活動。手軽な小物やアクセサリーは作らず、常に純粋な服のデザインだけ勝負する。今回は、そんなポリシーを貫く “孤高のファッションデザイナー”ドリス・ヴァン・ノッテンの創作の源泉と素顔に迫るドキュメンタリーをご紹介。

映画メイン(ドリスとスタッフ)
© 2016 Reiner Holxemer Film – RTBF – Aminata bvba – BR – ARTE

ドリス・ヴァン・ノッテンは、1958年、ベルギー・アントワープ生まれ。生家がブティックを経営し、少年時代から親に連れられミラノやパリなどのショーやコレクションを見学していたのだとか。18歳でアントワープ王立芸術学院のファッション・デザイン科に入学。卒業後、大学時代の仲間と“アントワープの6人”としてロンドン・ファッション・ウィークの「ブリティッシュ・デザイナーズ・ショー」に参加し、名を知られるようになった。1989年ごろから毎年春夏と秋冬のメンズとレディースのコレクションをスタート。2017年3月には記念すべき100回目のファッションショーを開催し、9月に過去のコレクションを総括する本「DRIES VAN NOTEN 1-100」が出版されたばかり。ショップやコーナーは世界17都市に広がり、日本には2009年に再オープンした東京・南青山の旗艦店を始め、大阪、福岡に計7つのショップ、及びコーナーがあるそう。

アントワープをファッションの世界地図上の重要な都市にした“アントワープの6人”

さまざまなカルチャーやテイスト、時代を融合させて作り上げる彼のスタイルは、常に斬新。その類まれな色彩感覚と美的センスには、ニコール・キッドマンやミシェル・オバマ前大統領夫人、アイリス・アプフェルなど名だたるセレブにもファンが多い。劇中でドリスが語っていたのだが、彼の服を一躍有名にしたのはマドンナなのだそう。また、映画が始まってすぐ登場する2015-16 秋冬コレクションのシーンでは、著名なファッション・フォトグラファー、ジャッキー・ニッカーソンや、横顔しか映らないが、あのジェーン・バーキンも観客として興奮気味に登場する。

「彼はファッション業界の宝」と語るファッション・アイコン、アイリス・アプフェル

3年に渡る交渉の末に実現したという、このドキュメンタリー映画は、2015春夏ウィメンズコレクションの舞台裏から2016/17秋冬メンズコレクションの本番直後まで約1年間に密着したもの。華やかなファッションショーの舞台裏はもちろん、そのきめ細かな制作過程や、ファッション関係者たちのコメント、そして過去のコレクションの映像と、ドリス自身へのインタビューを通して、彼の服作りへの情熱とその美しさの源泉を描き出していく。

 

「取り憑かれている」とも言えるほど、ファッションのことを考えていると語るドリス。ただし、彼はそれを“ファッション”とは呼びたがらない。ファッションは半年で飽きられてしまうから。彼が目指すのは、もっと「タイムレス」なもの。着る人とともに変化し、その人の個性になるもの。そして、「常に観客をワクワクさせたい」と願いながら、毎回数えきれない生地の中から素材合わせを繰り返す。本作でも印象的な場面となる広いオフィスの床一面に広げられたファブリックは、世界中から集められたもの。色も柄も素材も肌触りも違うこれらの生地を、一つ一つ自身の目で見て、触って、重ねて、偶然生まれる斬新でベストな組み合わせを探し続ける。

ドリスの服作りはまず生地を選ぶところから始まる。世界中の生地メーカーから集まった美しい生地をひとつひとつ吟味するドリス

「この服作りのやり方は私自身の人生を反映している。私は常に変化に富んだ環境に身を置きたいんだ」と語る彼の私生活が描かれているのも、本作の大きな見どころ。ザ・リンゲンホフと呼ばれる広大な庭園を備えたお城のような自宅でパートナー、パトリックと過ごすプライベートなひとときが映し出される。だが、家事も庭仕事も全力投球。常にベストな時間を過ごせるよう、休暇でも時間割を作るという徹底ぶりには驚く。

庭から摘んできた季節の美しい花々は家じゅうに飾られる

物事に階層をつけず、「いつも何かを見て、考えることを止められない」と言う。当然、服作りでも同様。関係者いわく「対象が芸術品でもポップアートでも大衆文化でも伝統芸能でも、同じ熱意と探究心に未知のまなざしで見つめ、中世もルネサンスも彼には現代と同じように同列に見る」という彼の2016春夏コレクション(マリリン・モンローのプリント生地を大胆に使った服をちりばめたコレクション)の制作過程は、中でもひときわエキサイティングだ(イケメンモデルもわんさか登場!)。

 

ファッションと芸術との違いは、産業か否かという点。そんな中、“独創的”でありながら“売れる”服を作るため、何事にも全力で取り組むドリス・ヴァン・ノッテンの素顔には、“ファッション界”を超越した情熱と美学を感じる。15年越しのラブコールでやっと実現したというパリオペラ座での2016/17秋冬メンズコレクションまでの貴重な密着取材映像は、観ているだけで至福の93分。イギリスのロックバンド・レディオヘッドのコリン・グリーンウッドが手掛ける音楽にも注目したい。

監督はドイツ語圏のドキュメンタリー界を牽引するベテラン作家、ライナー・ホルツェマー。07年に『マグナム・フォト 世界を変える写真家たち』(99)が日本公開されている。

 

『ドリス・ヴァン・ノッテン ファブリックと花を愛する男』

監督:ライナー・ホルツェマー
音楽:コリン・グリーンウッド(レディオヘッド)
出演:ドリス・ヴァン・ノッテン、アイリス・アプフェル、スージー・メンケス

●1月20日(土)よりKBCシネマ1・2にて公開

 

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