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「場」を変える 地域アートへ【コラム】

2019/02/23 LINE はてなブックマーク facebook Twitter

現代美術が「いま」を反映し、批評する芸術であるとするならば、作家や作品が美術館から街へと飛び出したのは必然だったのかもしれない。

1990年秋、舞台は再開発ラッシュの渦中にあった福岡市・天神地区。89年にソラリアプラザとイムズが相次いで開業すると、都市空間の拡大に呼応するように、国内外53組もの作家が参加し、商業施設や公共空間を使った現代美術展が始まった。「ミュージアム・シティ・天神(MCT)」である。

天神地区がまるごと美術館になった「ミュージアム・シティ・天神」
=1990年9月29日、福岡市

91年にはアジア初となる蔡国強ら5人の中国人作家による「中国前衛美術家展[非常口]」が開催された。福岡市美術館がアジア各国の現代美術を紹介する動きも加わり、福岡の美術状況は、にわかに国際性を帯びて活況を呈した。

「福岡が日本全体の先端を行っていると感じた」
MCTの企画に関わった福岡アジア美術館の黒田雷児運営部長は振り返る。

ピークは94年だった。当時を知る美術関係者は口をそろえる。
その年、福岡市美術館でアジア18カ国の作品による「第4回アジア美術展」が口火を切ると、MCTには草間彌生や小沢剛、会田誠ら現在も第一線で活躍する作家が参加。県立美術館の地元作家による「七つの対話」展や、北九州市立美術館の「3rd北九州ビエンナーレ」も重なり、現代美術展ラッシュとなった。

ネット時代の到来前夜。「今のようにSNSで評判が拡散する時代ではなかった」と運営を担ったアートコーディネーターの宮本初音さんは言う。それでも現代アートやアジア美術に関心を持つ学芸員らの耳目を集めた。アートにおいて、東京とは別の「極」になる可能性は十分あった。

市民参加型の企画や、まだ珍しかったアーティスト・イン・レジデンス事業も展開した取り組みは後年、都市型アートプロジェクトや、野外での国際美術展の「原型」と再評価される。

90年代後半から00年代にかけて景気後退とともに美術界は低空飛行を余儀なくされる。MCTは00年に終了したが、その10年間の活動が突破口となり、発表の場を美術館の外に求める新たな流れが生まれる。

その一つが作家自身がアートスペースを運営するケースだ。97年に北九州市小倉北区に「ギャラリーソープ」が誕生。福岡市では00年に「IAF SHOP」、04年に「アートスペース・テトラ」が開設された。

カフェやバーを併設し、表現者や客が飲食をともにしながら交流する運営スタイルは、作品鑑賞に特化した従来の美術館や画廊と異なり、「もう一つの」という意味の「オルタナティブ・スペース」と呼ばれた。

企業メセナが先細りする中、00年には福岡市の篤志家が資金提供してアトリエ兼ギャラリー「3号倉庫」も誕生。11年までに公募で選ばれた若手美術家計24人が入れ替わりを繰り返しながら拠点とした。

不景気のあおりで予算減などの締め付けが厳しい公立美術館も変革を模索し続けた。02年に九州の公立美術館で初めて「現代」の名を冠して開館した熊本市現代美術館は、子育て中の親子の交流スペースを設け、近隣の商店街と連携を図るなど、美術館の敷居を低くし、市民権を得るための試みを実践してきた。

「市民と関わることを考えてきた十数年間だった」。開館準備から携わってきた坂本顕子学芸員は語る。
特に16年4月に発生した熊本地震は美術館のあり方やアートの力を問い直した。本震から3カ月後、希望者に展示中の器を提供し、交換条件として器を使った食卓の写真を送ってもらって展示していく企画展を開催すると、まだ平穏な日常を取り戻す途上の時期にも関わらず、好評だった。美術はそのままで社会に役立てるという手応えを感じたという。

熊本地震の本震から3カ月後に開催した熊本市現代美術館の企画展。
芸術の力で被災者の復興を支援した=2016年8月

00年代は、新潟県の「越後妻有アートトリエンナーレ」や、瀬戸内海の島々を舞台にした「瀬戸内国際芸術祭」などの成功を受け、九州各地でも地域の歴史や特徴を生かしたアートプロジェクトが発展した。現代美術が「金になる」可能性が増えた時代ともいえる。

大分県別府市を舞台に09年から3度開催した芸術祭「混浴温泉世界」や14年の「国東半島芸術祭」など、全国の注目を集めた事業を手掛けてきたアートNPO法人「BEPPU PROJECT」の山出淳也代表理事は「地域型アートの流れは90年代から続いているが、現在のものとでは目的が変わった」と指摘する。

「アニッシュ・カプーア IN BEPPU」の展示風景。
ARTNE編集部撮影。

「90年代は作家の発表の場を作ろうという動きだったが、今は地域課題を浮き彫りにし、活性化や問題提起する手段となっている」
北九州市のアート系NPO法人が企画した「街じゅうアートin北九州」は、ものづくりの街・北九州の特色を生かした「自給自足」的な展覧会として成長した。熊本県津奈木町の町立「つなぎ美術館」は、海辺に立つ廃校を活用したアートプロジェクト「赤崎水曜日郵便局」が評判を呼び、町自体も注目された。規模の大小はあるものの、アートが「場」を変容させる可能性をそれぞれ示した。

一方、文化庁の文化審議会委員を務める山出さんには危機感もにじむ。「地域の芸術祭の時代はピークを越えた。平成の終わりとともに様変わりする」
政府は東京五輪がある20年に、日本人の美意識や価値観を国内外にアピールする「日本博」を実施しようと準備を進める。地方創生名目などで国が設けてきた芸術関連の補助金が削られて、地域の芸術祭やアートプロジェクトの運営は困難になり、「国家にフォーカスされようとしている」と山出さんはみる。

これから東京五輪、大阪万博と国際イベントが控える。これまで同様、現代美術は「いま」に呼応して変化していくだろう。うまく流れに乗って発展しようとするのか、大きな流れに取り込まれまいと抵抗するのか。まさに時代への批評性が問われている。(佐々木直樹)=2月14日 西日本新聞朝刊に掲載=

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