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手塚愛子作「縦糸を引き抜く-五色」 隠れたものを眼前に 再見 ザ・ベスト 福岡市美術館<中>【コラム】

2019/05/11 LINE はてなブックマーク facebook Twitter
「縦糸を引き抜く-五色」(2004年・手塚愛子作)

花々の陰影まで見事に表された既製の織物から垂れる、緑、赤、青、黒、黄の糸。タイトルが示す通り、糸は作者が一つ一つ引き抜いていったもの。西洋の古典柄を思わせる布に、こんなにも鮮やかな色が隠れていたことに、まずどきりとさせられます。実は引き抜かれていない色の糸が1種あることにお気付きですか? それは白。わずか6色の糸で、この織物の複雑な花模様は描かれているのです。
手塚愛子さんは、現在ドイツを拠点に国際的に活躍しています。今回特別にコメントをいただきました。「この作品は織物を解く手法を用いた初期のもので、まだ迷いながら作っていた、思い出深い作品です。絵画が原色から描かれて複雑な色味になっていくように、織物ではその時間を逆戻りできます。目の前に見えている『結果』の奥に隠れている、見えないもの。それを構造的に掘り起こしていく、という試みです」
本作であらわとなった構造は、手塚さんが元々学んでいた絵画にも、わたしたちが生きるこの世界にも、なぞらえることができそうです。色ごとに結われた糸が、器のような形を描いているのも示唆的です。(学芸員 正路佐知子)=4月24日 西日本新聞朝刊に掲載=

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