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【インタビュー】出展作家×キュレーター 対話で紐解くメディア・アートとテクノロジー|山口情報芸術センター[YCAM]

2017/05/04 LINE はてなブックマーク facebook Twitter

 

J:当時そこまでの言語化をできていたわけではありませんが、強大な作家性に対するアンチテーゼということは、活動当初から意識していたことでもありました。ラップトップでライブをする上で、ステージに立つ必要はないのに(alva notoや池田亮司と同世代の実験音楽家 Francisco Lopezは、Against the stage (2004) というエッセイの中でこのことを痛烈に批判しています。)そうすることへの疑問、その場限りの音が大事と言いながらもCDをリリースする音楽家への違和感、というのが背景にはあります。阿部さんの言葉を借りれば原理主義的とも言える、演奏者と聴衆とを区別せずすべて参加者とみなし、その各々が一人一つのサイン波のみを使う、というルールは、各々の参加者の個性・作家性を、強制的に一人ひとつのサイン波に還元してしまう暴力的な行為とも言えるかもしれません。

「The SINE WAVE ORCHESTRA stay」訪れた人によるデバイスの設置

J:ただ、今回の出展に際しては、作品を通じてこれまでの活動に対する自己批評をして欲しい、ということでしたので、このルールをどのように乗り越えるか、ということを意識してディスカッションを重ねました。その上で、今回取ったアプローチというのは、複数の作品を通じてそのプロセス自体を見せる、というもので、スタジオBの《The SINE WAVE ORCHESTRA stay》ではルールへの原点回帰、地下でのツアー《The SINE WAVE ORCHESTRA in the depths》ではルールの異なる解釈、そしてスタジオAでの《A Wave》ではルールそのものの再検討、を示しています。《The SINE WAVE ORCHESTRA stay》では、まさにルールに沿って、訪れた人一人ひとりが展示空間にひとつずつサイン波(デバイス)を残していき、その総体として作品が形作られていきます。一方で《The SINE WAVE ORCHESTRA in the depths》では、サイン波そのものの数(4)と周波数(3つのパターン)は固定されていますが、空間内を動き回ることにより、訪れた人各々が自らの移動に伴う様々な音の響きを体験することになります。さらに《A Wave》では、訪れた人はもはや動き回ることもなく、単一のサイン波に還元された映像と音とを体験します。この3つの作品を通して、訪れた人の参加の度合いは段階的に薄れていくわけですが、一方で各人ごとの体験の多様性は高まっている気もしています。作品と鑑賞者というモデルを、参加というルールによって一旦否定した上で、そこにある種立ち戻る、という今回の行為を通じて、いわゆる旧来の作家性とも異なる、別種の形での作り手としてのあり方を捉えることができつつある、と個人的には考えています。

サイン・ウェーブ・オーケストラ「The SINE WAVE ORCHESTRA in the depths」(2017年/YCAM委嘱作品)

A:特に、《A Wave》では、これまでとサイン波の還元の仕方が、再検討され、単一のサイン波を、空間の振動のモワレ的位相のズレや、ドローンに対する音響効果として提示するのではなく、巨大な空間の一面の明度の制御を、サイン波の論理の時間的変容において巨視的に感覚するというもので、その繰り返しの減衰と上昇の相互の体験が、身体感覚としても斬新なアイデアだと感じました。サンプリングされる映像内容は、定期的時間ごとに入れ替わっていくことで、画像そのものは判別できなくとも、緻密な差異が生み出される点も興味深いといえます。この作品の持つ方向性が今後、またどのように発展されていくのかにも注目していきたいと思います。SWOの《The SINE WAVE ORCHESTRA stay》から、この《A Wave》が生まれてくることは予想がつきませんでした。

J:最後にお聞きしたいのは、これはあくまでもテクノロジーを踏まえての答えになるわけですが、今回指摘されているテクノロジー依存症に対しての、テクノロジーを用いない別種の治療法、というものは存在し得ないのでしょうか。メディア・アートとテクノロジーが不可分なものなのか、コンピュータが人間の処理能力を超えることが予想される今、今回の展覧会を踏まえて考えることができる、ネクストフェイズ、別の段階、について思うところをお聞かせ下さい。

A:この問いは、非常に現在的な視点から発せられている気がしますし、簡単なものではありません。20世紀までに至る近代主義社会が、人間あるいは人類といった、理想主義的な平等なる視座の 探求と終焉に終始していたとするなら、テクノロジーは、人間あるは人類といった一 元的概念に偏差をもたらし、新たな亀裂を与える可能性があるのではないか、ということを示唆するのではないかと思えるからです。アントロポセン(人新世)のパラダイムの境界をどこに置くのかにも、多数の主張があるようですが、IBMによるパソコンの登場に、その分岐を見る意見もあるようです。この問いに対する応答は、次なる作品の構想において(アーティスト、あるいはキュレーターの立場から)実践的に回答していくということで保留しておきましょう。

 

 

城一裕
1977年福島県生まれ。九州大学芸術工学研究院准教授。博士(芸術工学)。専門  はメディア・アート。音響学とインタラクションデザインを背景とした現在の主なプロジェクトには、参加型の音楽の実践である「The SINE WAVE  ORCHESTRA」、ありえたかもしれない今を作り出す「車輪の再発明」、音・文  字・グラフィックの関係性を考える「phono/graph」など。山口情報芸術セン  ター[YCAM]専門委員(非常勤)。

 

The SINE WAVE ORCHESTRA(サイン・ウェーブ・オーケストラ)
サイン・ウェーブ・オーケストラは、2002年に4人のコアメンバー、古舘 健、城   一裕、石田大祐、野口瑞希によって始められたプロジェクト。音の最も基本的な要素といわれるサイン波、を参加者一人一人がそれぞれ一つだけ使うことが できるというルールのもと、サイン波による集合的な音表現としてパフォーマンス、 展示を展開してきた。主な展覧会としてNTTインターコミュニケーションセンター(2004, 2005)、横浜トリエンナーレ(2005)、MART(イタリア/  2006)、 LNMM(ラトビア/ 2006)、Edith Russ Haus(ドイツ/ 2010)、東京都現代美術館(2013)、恵比寿映像祭(2015)など。

 

阿部一直
1960年長野県生まれ。アート・キュレーター、コーディネーター(フリーランス)。東京藝術大学美術学部藝術学科美学専攻卒。90~01年キヤノン株式会社「アートラボ」プロジェクト専任キュレーター。01年〜山口情報芸術センター[YCAM]開館準備室をへて、03~17年3月同アーティスティックディレクター、副館長。06年ベルリン「transmediale award 06」国際審査員、14~16年文化庁芸術選奨メディア芸術部門選考審査員、などを務める。

 

本記事の写真はいずれも 
撮影:古屋和臣/写真提供:山口情報芸術センター[YCAM]

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