九州、山口エリアの展覧会情報&
アートカルチャーWEBマガジン

ARTNE ›  FEATURE ›  インタビュー ›  バスキアに直接インタビューしたライター/写真家ローランド・ハーゲンバーグに聞く 1980年代のNY【インタビュー】

バスキアに直接インタビューしたライター/写真家ローランド・ハーゲンバーグに聞く 1980年代のNY【インタビュー】

Thumb micro 6f601d4c95
浅野 佳子
2018/09/29
LINE はてなブックマーク facebook Twitter

エキサイティングだった1980年代のNYの息遣いをいきいきと伝える写真展「バスキアとNYアーティストたち Roland Hagenberg 写真展」が、ただいま三菱地所アルティアム(イムズ8F)で行われています。ライターで写真家のローランド・ハーゲンバーグが会場入りしたタイミングで、いったいどんな写真群なのかを聞きました。

ー今回展示されているのは、1980年代のNYのアーティストたちの姿ですが、その時代のNYはいったいどんな街だったのでしょうか?

ローランド・ハーゲンバーグ(以下ハーゲンバーグ):私には持論があって、それは、ある都市が世界を支配するタイミングがあるというものです。1950年代は、ピカソやマティスがいたパリ。1960年代は、独自の音楽が花開いたロンドン。そして1980年代に最も人々を惹きつけたのが、NYでした。
その当時は、今のようにインターネットが普及していませんから、アーティストが体ごとNYに行かなければならない時代。アーティストとして名を上げたい、成功したいと思う人は、みんな物理的にNYに「いる」ことが必要でした。そしてまた、今とは違ってソーホーやイーストビレッジのスタジオが安く借りられたため、お金がなくて希望を胸に燃やした人々が集まってきやすかったのです。
一方で当時は、薬物や犯罪などの危険と隣り合わせの街でもありました。そんなデンジャラスでファンタスティックな街が、1980年代のNYでした。


ーハーゲンバーグさんは、どういう経緯でNYにたどりつき、アーティストとの親交を持つようになったのですか?

ハーゲンバーグ私は、オーストリアのウィーンで生まれ育ち、ライターとして仕事をしていました。やはり当時のNYの魔力に惹かれていて、ドイツの「Berliner Kunstblatt」誌でNYのアートシーンについて書く仕事があり、1982年に初めてNYにやってきました。
当時、NYの街はグラフィティで溢れかえっていました。そして落書きだったグラフィティが、アートとして認められ始めていた時でした。キース・ヘリングやジャン=ミッシェル・バスキアたちの作品が、ストリートからギャラリーに展示されるようになってきていたのです。
私はもともとライターなので、写真家のように、最初から構えて写真を撮ることはしませんでした。「やあ、こんにちは。ちょっと話を聞かせてくれませんか?」とスタジオを訪ね、様々な話をしてから、ここに展示してある写真を撮ったのです。だから彼らの自然な姿を捉えることができたのだと考えています。

ー最初のゾーンは、そのジャン=ミッシェル・バスキアの写真ですね。彼とのエピソードを教えてください。

ハーゲンバーグ彼はそんなに社交的な人物ではありませんでした。私が会った当時は23歳でしたが、既にアーティストとして人気があり、スタジオにこもって作品作りを行っていました。ジュリアン・シュナーベルが撮った映画「バスキア」を見ましたか? 私はあの映画の中で再現されていた乱雑なスタジオですら、キレイすぎると思いましたよ(笑)。そのくらい、実際にはダークでカオスな場所でした。
私の写真は、記録としても意味があると思います。あるバスキアのコレクターは、私の写真を見て「ぼくの持っている絵とは違う!」と言いました。バスキアの制作途中でまだ完成形とはちがう作品の姿が収められていたからです。また、まるでジャクソン・ポロックのように、床に作品を置いて制作していた姿も、これらの写真がなければ今に伝わらなかったでしょう。
残念ながらこの時既に彼は、ドラッグに依存していました。この4年後にはこの世を去ってしまいます。

 

ー特にユニークな作品はありますか?

ハーゲンバーグ私が多くのアーティストをインタビューしたテープが出てきました。展覧会場ではその中から、バスキアとの会話を3分ほど聞けるようにしています。それを聞けばわかるのですが、私とアーティストとの会話は、予定調和的ではまったくありません。アーティストは自分勝手ですし、私もまたハンターのように食らいついたので、対立することもありました。まるで戦いのようです(笑)。このバスキアとの会話にも、途中彼が「出て行け!」と感情的になる様子が収められています。ただし、その後私の意図を理解して、インタビューに応じてくれるのですが…。

 

ーちなみにハーゲンバーグさんのお気に入りの写真を教えてもらえますか?

ハーゲンバーグこの腕を組んでいるバスキアの写真です。憂鬱そうで物思いにふけっています。こういう姿が、彼の本当の姿のように思えるので、気に入っています。

ーハーゲンバーグさんが、いま魅力を感じている都市はありますか?

ハーゲンバーグアートという文脈で言うと、かつてのように一都市が魅力的だった時代はもうやってこないと思います。世界中のどこにいても繋がれるというテクノロジーは、一方でクリエイティブであることの邪魔をする面もあると思うのです。
私がいま興味を持っているのは、日本の建築です。400年前に生まれたミニマリズムを、現代の日本の建築家たちが体現しているのをおもしろく感じています。

おすすめイベント

RECOMMENDED EVENT
Thumb mini 0f54d98ee9
終了間近

特別展「生誕270年 長沢芦雪―若冲、応挙につづく天才画家―」

2024/02/06(火) 〜 2024/03/31(日)
九州国立博物館

Thumb mini 4db0098497
終了間近

『きみがいるから』原画展

2024/03/09(土) 〜 2024/03/31(日)
合同会社書肆吾輩堂

Thumb mini 06e57164b2
終了間近

『その怪文書を読みましたか』展

2024/03/16(土) 〜 2024/03/31(日)
hmv museum 博多

Thumb mini 1ac0126173

マルタ伝統工芸
ガヌテルアート展
ししゅう糸とワイヤーで作るマルタの花を楽しもう!

2024/03/25(月) 〜 2024/03/31(日)
アクロス福岡2F メッセージホワイエ

Thumb mini 662a82ff3e

朝日焼十六世 松林豊斎 茶陶展

2024/03/27(水) 〜 2024/04/01(月)
福岡三越4階「岩田屋三越美術画廊」

他の展覧会・イベントを見る

おすすめ記事

RECOMMENDED ARTICLE
Thumb mini ea9280df17
インタビュー

町田啓太さんにインタビュー! 音声ガイドを務める特別展「生誕270年 長沢芦雪」 九博で来年2月に開幕!

Thumb mini a8aef0aee6
インタビュー

【対談】㊤ 神に捧げた心と体 佐藤究さん(作家)×河野一隆さん(東京国立博物館)/「古代メキシコ」展、九州国立博物館

Thumb mini 00472e9c82
インタビュー

子ども驚かせるリアリズム メカデザインの〝レジェンド〟 宮武一貴さんに聞く 福岡市美術館「日本の巨大ロボット群像」展 松本零士さんとの思い出も【インタビュー】

Thumb mini 8994e4f42b
インタビュー

展覧会「ヨシタケシンスケ展かもしれない」が開催中! 絵本作家・ヨシタケシンスケさん【インタビュー】

Thumb mini 9593c9a70b
インタビュー

ヨシタケシンスケさんに聞く 例のない展覧会かもしれない 見どころは他のお客さん 福岡市科学館で初の大規模個展【インタビュー】

特集記事をもっと見る