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福岡とアジアの繋がりも感じつつ楽しみたいアジ美の「サンシャワー展」【レポート】

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木下貴子
2017/11/17
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日本において、西洋美術はかなり人気が高い。だが、アジア美術に関してはどうだろう。ましてや現代美術において、どれほどの関心がもたれているだろう。世界的にみると、近年、アジア現代美術の展覧会が各地で開催されるなど、高い注目を集めているのだが……。

翻って福岡をみてみると、アジア現代美術と福岡の結びつきは長い。世界で唯一、アジアの近現代美術作品を系統的に収集し展示する福岡アジア美術館(アジ美)が、18年前の1999年に誕生した。これは多くの方がご存知のことだろう。しかしアジ美が開館する以前、1979年から1994年の間に福岡市美術館にてアジア美術を紹介する大規模な「アジア美術展」が4回にわたって開催されていたのである。

……という前提をふまえたうえで、アジ美で現在開催中の「サンシャワー:東南アジアの現代美術展 1980年代から現在まで」(以下「サンシャワー」展)の会場レポートをお届けしたい。

 

 

「サンシャワー」展は、この夏、東京の国立新美術館・森美術館にて2館同時開催され、全国的に話題となった。それもあって関心が高まっていたせいか、開会式はかなりの賑わいを見せた。

開会式が始まる前の様子。現代美術展でこれほどの人が集まるのは珍しいのでは。
テープカットには、メインビジュアルとなっている≪奇妙な果実≫の作者で出品アーティストのリー・ウェン(シンガポール)も参加。

「情熱と革命」「さまざまなアイデンティティー」「歴史との対話」など9つの視点で、東南アジア10カ国・28作家を紹介する展覧会。巡回展という位置づけでありながらも、東京展とは大きく異なっている。会場の広さにあわせて、福岡展では作品を厳選。そこに福岡だけの展示作品を加えるという、独自の展開がなされているのだ。

「情熱と革命」のコーナーに展示された巨大な絵画作品はすごいインパクト! 手前の作品がノルベルト・ロルダン(フィリピン)≪弁証法的唯物論≫(2013年)で、左がワサン・シッティケート(タイ)の絵画シリーズ≪青い10月≫(1996年)。


こちらはインドネシアのFX ハルソノの近作インスタレーション。隣には過去作品が展示され、政治、社会、環境を問題に制作を続けてきたアーティストの姿勢も見る事ができる。この過去作品はアジ美の所蔵作品だ。

FX ハルソノ≪遺骨の墓地のモニュメント≫(2011年)。1940年代後半にオランダ軍の第二次警察行動中に起きた中華系ジャワ人の大量虐殺と、その後の集団埋葬がテーマ。円形に積み重ねられた200個以上の木箱の中には被害者の名前を書いた紙などが納められている。

 

FX ハルソノ≪声なき声≫(1993-1994年)。指文字を描いた9枚のパネルの前に、指文字が表すアルファベットのスタンプが置いてある。その文字を集めていくと現れる言葉は……。


福岡展で展示される89点の作品と資料のうち、29点がアジ美所蔵のものだという。ゆえに地元のアートファンとっては懐かしい作品や馴染みの作品も見る事ができる。例えば、開会式に参列したリー・ウェンの作品。東京展で展示された≪奇妙な果実≫(2003、2012年)に加え、福岡展では彼が1994年に福岡で行ったパフォーマンスの記録写真と映像、そのパフォーマンスの際に制作した作品なども展示されている。

リー・ウェン≪イエローマンの旅 No.5:自由への指標≫(1994年)。1994年に福岡市美術館で開催された「第4回アジア美術展」に参加した時にここ福岡で生みだされた作品だ。

 

東京と福岡の両展でポスターのメインビジュアルに使われた「奇妙な果実」の展示風景。

リー・ウェンの隣に展示された、アマンダ・ヘン(シンガポール)の作品も懐かしい!アジ美の記念すべき開館展「第1回福岡トリエンナーレ」(1999年)で発表された、作家とその母親の回復関係をテーマにしたシリーズ作品≪もうひとりの女≫だ。当時出品された4点とともに、20年後に撮影した作品≪20年後≫も展示されている。

アマンダ・ヘンの展示風景。写真作品の隣では、「第一回福岡トリエンナーレ」で行ったパフォーマンスの記録映像が流れる。

展示内容や作品が異なるだけでなく、福岡展ではシンガポールのタン・ダウが新たに出品作家に加えられている。シンガポール現代美術の先駆者であるというのはもちろんだが、彼は1991年に福岡市美術館にて個展が開催され、またアジ美のレジデンス・プログラムで最初に招へいされたアーティストでもある。さらに、福岡市主催の「福岡アジア文化賞」の芸術・文化賞を1999年に受賞。福岡で東南アジアの美術を語るにあたって、欠かせない重要なアーティストの1人なのだ。

シンガポールの研究者コウ・グワンハウが長年取り組んできたシンガポール美術の活動の記録を紹介する「アーカイブ」コーナー。タン・ダウの作品は手前の立体≪犀のドリンクで復元された角≫(1989年)と右端の絵画≪米を作る人々≫(1988年)。

とまあ福岡ならではの展示に焦点を当ててご紹介したが、もちろん魅力は他にもある。東南アジアの歴史や現状を物語る個々の作品や、コンセプト抜きで視覚的、体感的に楽しむことのできる作品……見る方の感性で、東南アジアのアートを自由に感じてほしい。

ヤスミン・ジャイディン(ブルネイ)≪オブジェクト01-09(「私物のコレクション」シリーズより)≫2017年。自身の大切な所持品を綿で包み、それを原型とした砂糖のオブジェを紐で縛った作品は、見た目美しく、また何を包んだかも明かされないため、心が引きつけられる。

 

トゥアン・アンドリュー・グエン(ベトナム)≪崇拝のアイロニー≫2017年。華々しく祀られるセンザンコウは、東南アジアを主な生息地とする絶滅危惧動物だという。

出展者の一人、シンガポール美術の研究者、コウ・グワンハウと話す機会があった。彼もまた1999年にアジ美の初の交流プログラムの研究者として福岡に滞在し、以降、アジ美と交流を続けている。その彼がこう話していた。「アーティストに詳しかったり、作品を懐かしんだり。福岡ではアジア美術がとても親しみを持たれているような印象を受けました」。

本展は、一過性の展覧会ではない。アジ美が、福岡が、長きに渡って築きあげてきたアジア美術との交流の蓄積がもたらした継続的な展覧会であるといえるだろう。

「サンシャワー」展は12月25日(月)まで開催。同時開催されている博多区にある承天寺での関連企画「博多でつなぐ東南アジア」でのスーザン・ヴィクターの新作インスタレーションもあわせてお楽しみを。

会場を出た廊下(無料エリア)に展示されるヴェリックス・バコロール(フィリピン)≪荒れそうな空模様≫(2009/2017年)。800個ものカラフルな風鈴による複雑な音色に、あなたは何を感じるだろう?

 

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