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キュートな絶滅危惧種が伝えるアイロニー。混然一体のベトナム社会を紐解く【学芸員コラム】

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アルトネ編集部
2017/12/16
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福岡アジア美術館で開催されている「サンシャワー:東南アジアの現代美術展 1980年代から現在まで」。本企画を担当する福岡アジア美術館学芸員3名によるリレー形式でコラムを寄稿いただきます。第2回はベトナムのトゥアン・アンドリュー・グエンの作品についてです。(編集部)

 

スター作家たちが集まるサンシャワー展のなかで、ひときわ光り輝いているのは、今回ご紹介するベトナムのトゥアン・アンドリュー・グエン(Tuan Andrew Nguyen)です。トゥアンは1976年ホーチミン生まれ、3歳のときに難民として家族とともにアメリカへと移り住みました。現在は帰郷し、アーティスト・コレクティブ「ザ・プロペラ・グループ」(2006年-)のメンバーとしても活動しています。

トゥアン・アンドリュー・グエン

彼のサンシャワー展出品作である≪崇拝のアイロニー≫は、福岡会場で配られる作品リストの表紙もかざっています。本作を表紙に選んだデザイナーによれば、「いろんな要素が入り混じっているカオス的な状態に、アジアらしさを感じた。電飾の感じも気に入った。」と話してくれました。

たしかに様々なモチーフが混在した、不思議な魅力にまず目を奪われます。本体部分は、ベトナムで実際に使用されていたアンティークの祭壇が用いられ、その周りを派手なネオン管が取り囲みます。中央にはゴジラのような生き物がたたずみ、キュートな顔立ちに、ゴツゴツとした鱗(ウロコ)と長いしっぽ、それから手には大きな赤い旗を抱えています。

トゥアン・アンドリュー・グエン ≪崇拝のアイロニー≫ 2017年、木、金属、ネオン、LEDライト、プラスチック、作家蔵

この奇妙な生き物のモデルは、東南アジアやアフリカを主な生息地とするセンザンコウ(Pangolin)です。日本では上野動物園に雄と雌の2頭にいるそうですが、希少なため普段見かけることはないでしょう。鱗(ウロコ)は、天然の鎧と言われるほど固く、漢方の世界では長寿や精力増強の効果があると言われています。そのため多くが捕獲され、とくにアジアでは絶滅の危機に瀕しています。先日も中国で約12トンの密猟されたセンザンコウが押収されたというニュースが流れました。

最近の調査によると、その鱗(ウロコ)は人の髪と同じような成分で出来ており、実際の効果は期待できないそう。しかし人々の土着的な信仰は根強く、一部の市場では高値で取引されるため密猟が後を絶たないと言います。作者はこの状況をより多くの人に知ってもらうために、複数のプロジェクトを通じて啓蒙活動を行ってきました。本作では、センザンコウが「絶滅するならば死を」とベトナム語で刺繍された赤い旗を持ち、まるで革命家のように自らの不遇を訴えています。

トゥアン・アンドリュー・グエン ≪崇拝のアイロニー≫ 2017年、
木、金属、ネオン、LEDライト、プラスチック、作家蔵 (部分)

カリフォルニアで育った作者にとって、成年になってから移住したホーチミンは、新しいものと昔からあるものが混在する、魅惑的な都市として映ったに違いありません。彼のこれまでの作品は、異なる要素のものを思ってもみない方法でつなげることで、斬新な表現を展開してきました。本作では動物と革命家、古い祭壇とネオン管、宗教と自然界への迷信などが、混然一体となって現れることで、ベトナム社会の現状をひも解くヒントとなっています。

本作に限らず、サンシャワー展の出品作品の多くが、自らのコミュニティや歴史にかかわる社会的なテーマと向き合っています。個人の表現に端を発するアートが、今日のようなグローバルアートと呼ばれる状況の中でどのような進展をとげていくか。これからも注目していきたいと思います。展示は12/25(月)まで。

(福岡アジア美術館学芸員 柏尾沙織)

 

 

<サンシャワー展イベント情報>
学芸員によるギャラリートーク
■開催日

12月23日(土)14:00~14:30
五十嵐理奈学芸員による<ミャンマー、シンガポール>の作品を中心としたトーク

料金
要展覧会チケット(一般800円、高大生500円、中学生以下無料)
会場
福岡アジア美術館(福岡市博多区下川端町3-1 リバレインセンタービル7・8階)
問い合わせ先
福岡アジア美術館 TEL:092-263-1100

 

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