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天か地獄か、死者は10人の王に裁かれる -エンマと地蔵菩薩-【レポート】

2018/06/07 LINE はてなブックマーク facebook Twitter

福岡市博物館(福岡市早良区)で9月15日(土)から11月4日(日)まで、特別展「浄土九州─九州の浄土教美術―」が開催されます。そこで同博物館で、福岡ミュージアムウィークの一環として講演会「地獄の主役:エンマと地蔵菩薩(ぼさつ)-九州は浄土・京都は地獄-」を5月19日に実施。講師は京都の龍谷ミュージアム教授の石川知彦さん。仏教で説く死後の世界「地獄」と「浄土」をテーマに、閻魔王(えんまおう)の成り立ちや変遷、地蔵菩薩の役割などについてユーモアたっぷりに語りました。石川さんのお話を要約して紹介します。

 

地獄はまるでテーマパークのよう?!

「最近地獄がブームになっています。なぜかというと、地獄はけっこう面白いからです。それに対して極楽浄土はつまらない。地獄はまさにテーマパーク。見る分には絶対楽しい」と石川さんは切り出します。

「キリスト教では地獄の反対は天国で、仏教の地獄の対極は浄土。いろんな仏様や菩薩が住んでいる浄土へ行くというのが、地獄に落ちることの対極になるのです」。仏教において人間の最終的な目的は、人間として悟りの世界に目覚めることであり、そこに向かって努力し、最終的には悟りの世界に入ることだと説明します。

地獄は行きたくない、なんとか極楽往生したい、というのが一般的に日本人が持つイメージかと思います。「死ぬとどうして地獄に行ってしまうのでしょうか。仏教で死出の旅路の時に、草履を履かせたり、杖を棺おけに入れたりするのには、意味があります。人が亡くなると、まず死出の山(死天山)を越えることになります。これを越えること自体が大変なことで、旅支度が必要になるのです」

 

天か地獄か、死者は10人の王に裁かれる

死後の世界では、10人の王がいて裁判官のように裁くという話には興味津々。「死天山を越えたら、さっそく十王の一人が出てきます。1番手は、秦広王(しんこうおう)。結果的に極楽往生する方も、地獄に落ちる方も、ここから審判が始まります。そしてみんなが針の山を越えるのです。この山を越えるために草履が必要です」。

この山を越えると、2番手の初江王(しょこうおう)が出てくるとか。その王の裁きの前に、衣領樹(えりょうじゅ)という木があり、その木の元に奪衣婆(だつえば)と懸衣翁(けんねおう)という人間の姿をした鬼がいて、着ていた服を奪衣婆がはぎ取り、その服を懸衣翁が衣領樹の枝に掛けるといいます。「枝のしなり具合で、罪の重さが測られるのです」。

「この後、裸で三途(さんず)の川を渡ります。三つの渡り方があるので三途といいます。一番罪が軽い人は橋を、悪さが少なかった人は浅瀬を渡ります。一番罪深い人は激流。大蛇、竜などがうようよしているところを泳いで渡ることになります。子どものうちに亡くなったときは、賽(さい)の河原に連れて行かれ、そこで石を永遠に積み続けます。」

三途の川を渡ると、3番手の宋帝王(そうていおう)、4番手の五官王(ごかんおう)が続くと説明。五官王が持っているのが“業のはかり”という天秤(てんびん)です。「一方に重しが付いていて、もう一方に亡者が載せられ、地獄行きかどうかが決まります」

 

閻魔王は5番目に登場、いわば地裁

その後、5番手に出てくるのが、私たちも知る閻魔王。「忌日と十王は関連があり、一七日(初七日)で秦広王、五七日で閻魔王が登場します。七七日(四十九日)で極楽に行くのか、あるいは地獄を含む六道輪廻(りんね)に戻されるかが決定します。ただし、6番手の変成王(へんじょうおう)、7番手の泰山王(たいざんおう)は、今の裁判所に例えると高裁と最高裁。地裁で最初に判決を下すのが閻魔王です。本来は七七日の法要よりも、35日目の五七日できっちりと法要をしないと、まともな判決が出ないことに」。地裁、高裁、最高裁という分かりやすい説明に、思わず納得です。

「地獄は六道の一つ」と六道絵を示し、一番悪いのが地獄、次が餓鬼、畜生、阿修羅(あしゅら)、人(にん)、天と説明します。「天は、天国ではなく天人や天女が住む所です。天に行ったとしても必ず衰えて、やがて死を迎えます。そして一からやり直しです。動物に生まれ変わるのが畜生。阿修羅は人ですが、一生戦いに明け暮れる。この六つをぐるぐると回るのが、六道輪廻。六道輪廻から脱却して浄土に行けるかどうか決まるのが、五七日の閻魔王の裁き。最終判断を下すのが7番目の泰山王です」

十王の8番目は百か日の平等王(びょうどうおう)、9番目が一周忌の都市王(としおう)、10番目は三回忌の五道転輪王(ごどうてんりんおう)。「なぜいるのかというと、再審請求ですね。最終的に三回忌のときに、行き先が正式に決まるのです。十王の中心にいるのが閻魔王です」。浄土に行くにも、地獄を含む六道に行くにも、十王が関わっているのですね。

 

地蔵菩薩は十王の上に立つ尊格

ところで、お地蔵さんについて詳しく知っていますか? 石川さんは「お坊さんの姿をされていて、右手に錫杖(しゃくじょう)を、左手には宝珠を持っています。お地蔵さんがインドで生まれたときは頭を丸めていませんでしたが、中国に渡り、浄土教と習合して特別の役割を与えられました。それは六道輪廻で苦しむ衆生の救済というテーマでした」と話します。

「大地をつかさどる地蔵菩薩の対になるのが、天をつかさどる虚空蔵(こくうぞう)菩薩。浄土教の中では、弥勒(みろく)菩薩の出世までの無仏時代の衆生を救済する仏として地蔵菩薩が説かれます」。お坊さんという身近な姿から、子どもの守護神としても信仰されるようになったそうです。

「こういった姿のお地蔵さんは、中国で成立した地蔵十王経で十王の上位に立つ尊格として、地蔵菩薩が説かれています。いわば、閻魔王などの十王を統括する仏ということで中国の経に説かれています」。

 

世界最初の人類で最初の死者が閻魔?

一方、閻魔王は、中国で生まれたそうです。「閻魔王は、元をたどると、インドの焔摩天(えんまてん)に行き着きます。焔摩天はサンスクリット語でヤマという人です。ヒンズー教の聖典リグ・ベーダに出てくる人で、世界最初の人類で、当然世界最初の死者になった人です。死後、死者の国の王となったのです」。

最初はヤマの国は死者の楽園でしたが、生前に罪を犯した者を罰する神と認識されるようになり、またヤマ自身が死の象徴と考えられるようになったといいます。「このヤマが仏教に取り入れられ、焔摩天になって死の国を支配する王と位置付けられ、天界と地獄世界の主だとインドの仏教では考えられています。この焔摩天が中国に渡り、閻魔王と名前を変えていきました」

 

優しい顔立ちの焔摩から恐ろしい閻魔へ

インドで生まれた焔摩天。これが密教で十二天に組み込まれます。「十二天とは四方八方の八方、それに天、地、日、月。これらを守るそれぞれの神様です。焔摩天は、南の方角を守る神様になります。代表的な作例が京都の醍醐寺に伝わった木彫の焔摩天です。絵画ではより古いものが残っていています。奈良県の西大寺の十二天。これも水牛にまたがっています。平安時代後期になると、同じ十二天でも全く違った姿になります。鳥獣にまたがらず、台座に変わります」

独尊としての焔摩天についても説明が続きます。「滋賀県にあるMIHOミュージアムが収蔵する焔摩天の独尊は、牛の背に片足を踏み下ろして座っています。焔摩天が中国に伝わり、そして日本でどんどん姿を変えていくわけです。江戸時代に作られた栃木県の西明寺の閻魔王坐像は、目が白く、髪はパスタのようにねじねじになっています」

「優しい顔立ちをされていた焔摩天。日本では奈良時代から平安時代を通して、室町時代、江戸時代まで描き継がれるわけですが、焔摩天がだんだん閻魔王に変わっていく姿が見られます。曼荼羅(まんだら)で変容を遂げていることが分かります。焔摩天の部下からだんだん姿が変わっていくのです」

テーマパークのような地獄の世界に導くのに、閻魔王など10人の王が関わっていることを知りました。仏教絵画や彫像もたくさん紹介され、これらに表現された時代とともに変わっていく閻魔王の姿は大変興味深いものでした。

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