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伝える力に感動、「京都・醍醐寺−真言密教の宇宙」(後編)【レポート】

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伊勢田美保
2019/02/18
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九州国立博物館で開催中の「京都・醍醐寺−真言密教の宇宙」を巡るこのレポート。前編では醍醐寺に伝わる彫刻や絵画を中心に見どころをご紹介してきました。真言密教のうち、修法(すほう)や加持祈祷といった実践を重視する寺として発展してきた醍醐寺ですが、ではそれを一体どのような形で残したのでしょうか?後編では、密教を大切に伝え継ぐために書かれた書跡などにもスポットを当て、紹介していきたいと思います。

まずは《醍醐寺縁起》。醍醐寺創建の由来や、初代座主・観賢の伝記などを書写した巻物で、広げると10mにも及ぶ長尺です。中には老翁が山中の水を飲み「醍醐味」と言ったのが「醍醐寺」の由来となったことや、聖宝の伝記なども詳細に書かれ、創建期の寺の歴史を知ることができます。

国宝《醍醐寺縁起》江戸時代,17世紀

 

続いては《玄秘抄(げんぴしょう)》。これは17代座主の実運が、真言宗醍醐派の一派である、三宝院流の口伝を記したもの。20種類の諸尊法について道場観や曼荼羅、支度など、修法上必要な事柄が説明されています。口伝から文字に起こすことで教えを間違いのない形で伝えようとしたこと、それを代々受け継ぎ、今もなお大切に保管していること…その事実に、ただただ感動します。

国宝《玄秘抄》平安時代,12世紀

 3国(インド・中国・日本)の高僧46人の肖像を書いた《三国祖師影》も興味深いものです。それぞれ名前と忌日が書かれていて、血脈や法流を重視する僧侶たちによって描き継がれてきたものだそうです。

国宝《三国祖師影》鎌倉時代,14世紀(展示期間~2月24日まで)

 展示から話は少しそれますが、「伝える」という視点で是非ご紹介しておきたいのが、開催初日に行われた声明コンサート。声明とは、仏典に節をつけた仏教音楽の一つで、この日は醍醐寺の御導師を中心とした僧侶約20名により「五大力尊仁王会前行法要」が披露されました。ちなみに醍醐寺では真言を力強く唱える「呪立て」で、907年の醍醐天皇の時代から現在まで、毎年2月15日から21日までの前行と、23日には金堂で仁王会の大法要が営まれており、庶民の願いを受け入れる一大祈祷会として多くの信心を集めているそうです。この貴重な斉唱を聴けるとあって、事前予約した観客で280席のホールが満席になりました。

 

 

九博1階のミュージアムホールで行われた「総本山醍醐寺 声明コンサート」の様子

 

時に額に汗を浮かべながら発せられる、心地よくも力強い、幾重にも重なる声の波。胸にじんじんと響いてきて、会場の人の多くも目を瞑り、その斉唱を聴き入っていました。とても厳かで贅沢な1時間でした。

さて、この声明コンサートで御導師も使われていた密教法具ですが、展示室でもその一部が紹介されています。醍醐寺で実際に使われている様子も動画で放映されているので、チリンチリンという音色だけでも、ぜひ味わってみてほしいと思います。

重要文化財 右から《金銅九鈷杵(こんどうくこしょ)》中国・宋時代,12世紀、《金銅五鈷鈴(こんどうごこれい)》鎌倉時代,13世紀

 

密教法具の数々が置かれた《大壇具》安土桃山〜江戸時代,16〜17世紀

 

最後にもう一つおすすめを。展示だけでも十分満足できる本展ですが、展示室に数カ所設置されている説明パネルを見れば、真言密教のさまざまなことがらについて、さらに理解が深まります。

 

密教法具を説明したイラストパネル。「密教とは?」「どの仏さまに祈願する?」といった疑問にやさしく答えてくれます

前編、後編にわたり紹介してきた「京都・醍醐寺−真言密教の宇宙」。観覧を通して、私はまるで瞑想でもしているかのような、静かで穏やかな心地になりました。まだ行かれていない方はぜひ会場に足を運んで、その奥深さに触れてみてはいかがでしょうか?

※すべて醍醐寺蔵

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