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絵師、造形プロデューサーとしての空海【京都・醍醐寺展関連コラム】

2019/01/30 LINE はてなブックマーク facebook Twitter

 自宅から20分ほど歩くと、観世音寺(福岡県太宰府市)に着く。静かなたたずまいの寺だが、奈良時代には東大寺と並ぶ名刹(めいさつ)として栄え、平安前期には空海が滞在した。
 留学僧として唐に渡った空海は、わずか2年で密教を究め、20年かけて学ぶ予定を切り上げ、806(大同元)年10月までに博多の土を踏んだ。予定を早め帰国したことが朝廷から許されるまで、唐から持ち帰った経典や法具とともに大宰府にとどまった。

「空海像」室町時代、16世紀

 年が明けた2月11日、空海は国内初の真言密教による法事を行った。自著「性霊集(しょうりょうしゅう)」に、大宰府の役人、田中氏の亡き母を供養する法要を営むために記した願文(がんもん)が残る。法華経8巻と般若心経2巻を書写し、荒れた庭を掃き、水を打って清めて儀式を行う席を設けた。念入りに舞台を整え、記録も残したところに空海の意気込みを感じる。遠く離れた京の高官の耳に入ることを意識したデモンストレーションだったのだろう。
 注目すべきは、この法事のために空海が絵を描いている点だ。千手千眼大悲菩薩(せんじゅせんげんだいひぼさつ)や四摂(ししょう)八供養菩薩など13尊像を図絵したとある。現存はせず、どのような絵か知るすべはないが、能書家の空海である。絵の腕も確かだったろう。
 状況からも、そう言える。日本人が初めて目にする本格的密教儀式なのだから、「絵が要る」と言う人があろうはずもない。空海自身が人に見せるつもりで絵筆を執ったのである。つまり、見事と評される水準にあったはずだ。
 そもそも空海が伝えた真言密教は、ビジュアルを重視した。密教は二つのインド哲学がベースだが、その奥義は難解なので絵図「両界曼荼羅(まんだら)」によって示された。極彩色で見る者を宇宙的瞑想(めいそう)へ導く。
 空海は、奈良仏教にはなかった異形の仏も唐から招来した。憤怒の形相の五大明王、四天王などが知られる。さらにこれらを迫真的な像に彫らせて色彩を施させ、立体的な曼荼羅として構築した。不動明王は特に信仰を集め、本尊として祭られるようになる。姿態の様式は「弘法大師様(よう)」と呼ばれ、現代に伝わる。

重要文化財「五大明王像のうち不動明王」平安時代、10世紀


 空海は、ある時は絵師として、またある時は造形プロデューサーとして、絢爛(けんらん)たるビジュアルを創作し、布教に生かした。密教に関わる品々が、人々を魅了する美術品でもあるゆえんだ。

国宝「大日経開題」 空海筆 平安時代、9世紀(展示期間:1/29~2/24)


 密教を彩る宝物の数々が今月末、空海ゆかりの地・太宰府に大挙してやって来る。九州国立博物館で開かれる「京都・醍醐寺ー真言密教の宇宙ー」展だ。観世音寺にもほど近い。開祖が生み出した品々の末裔(まつえい)の里帰りともとれる。(デザイン部次長 大串誠寿)=1月23日 西日本新聞朝刊に掲載=

いずれも醍醐寺蔵、画像提供:醍醐寺 

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