江口寿史展
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福岡アジア美術館
2020/06/17 |
ARTNEでは、2020年5月21日に他界された福岡市の画家、菊畑茂久馬さんを追悼し、過去、菊畑さんが西日本新聞で執筆した書評や本についてのコラムを連載します。
【第1回】
「戦争と美術」(国書刊行会) 冷徹、芸術的な論考
久し振りに本格的な戦争画の画集が出版された。かつて一九六七年にノーベル書房から「太平洋戦争名画集」が出版されたが、これとて終戦から二十二年も経(た)ってのことであった。このノーベル書房版から数えても、実に四十一年ぶりの出版である。
このように戦争画の画集の出版が非常に困難な事情からも窺(うかが)えるように、先の大戦終結からすでに六十三年も経つと言うのに、依然(いぜん)として戦争が芸術に残した傷は癒えず、大量の戦争画は未(いま)だ封印されたままである。
かつて日本の近代は、日清、日露、日中、太平洋戦争と、戦争の中を突き進んできた。国家総力戦の中で画家たちも例外ではなく、戦意高揚のため膨大な戦争画が描かれたのである。
その代表的な戦争画百五十三点は、敗戦後米軍に接収されて米国へ運ばれ、長いこと忘れ去られていた。それが一九七〇年、大阪万博開催年に「無期限貸与」というかたちで米国から返還され、未だ全面公開されることなく今日に至っているのである。
さて今回の画集であるが、タイトルの年代が示す通り、日中戦争から太平洋戦争時に描かれた戦争画が二百五十一点掲載されている。やはり中心は、米国から返還されて現在東京国立近代美術館に保管されている作品群だ。
有名な中村研一の「コタバル」、小磯良平の「娘子関を征く」、北蓮蔵の「提督の最後」、橋本八百二の「サイパン島大津部隊の奮戦」など、かなりのものが出ている。また新たに各地美術館所蔵のものや、個人所有のものも加わり、更に行方不明の作品を当時の絵葉書などの写真を転写して掲載しているのも貴重だ。
だが、戦争画の大御所藤田嗣治の作品が一点もないのが、なんとも残念で淋しい。著作権継承者の許可が得られない以上致し方のないことである。
注目は六人の編者が、針生一郎の総論を柱に、それぞれの分野から読みごたえのある画論を展開していることだ。これまでの苦渋に満ちた画論に比べると、一歩も二歩も踏み込んでいて、戦争と美術を切り離す冷徹な芸術的論考が思いの外(ほか)進んでいる。
戦争画が全面的に未だ開陳されないことは、確かに不幸なことだが、この試練の中で批評が戦争画をいかに克服するか、美術批評が試されている最大の難問である。(画家・菊畑茂久馬)
▼きくはた・もくま 画家。1935年、長崎市生まれ。57年-62年、前衛美術家集団「九州派」に参加。主要作品に「奴隷系図」「ルーレット」「天動説」の各シリーズ。97年に西日本文化賞、2004年に円空賞をそれぞれ受賞。「絵かきが語る近代美術」など著作も多い。2020年5月に他界。
=2008年3月23日西日本新聞朝刊に掲載=
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