江口寿史展
EGUCHI in ASIA
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福岡アジア美術館
2020/07/02 |
ARTNEでは、2020年5月21日に他界された福岡市の画家、菊畑茂久馬さんを追悼し、過去、菊畑さんが西日本新聞で執筆した書評や本についてのコラムを連載します。
【第7回】『ゴッホの復活』小林英樹著 情報センター出版局
贋作ゴッホに戦いを挑む
ゴッホは一八五三年三月三十日、オランダの片田舎に生まれ、一八九〇年七月二十九日パリ近郊オーヴェール村で、自ら銃弾を胸に撃ち込み三十七歳の悲運の生涯を終えている。彷徨(ほうこう)の末、絵筆をとったのは二十七歳だったから、画家としてはわずかに十年である。
私共にとって、十年という歳月がいかほどのものか、夢うつつに過ぎ去る時間である。しかしゴッホのこのかけがえのない時間の中には、油絵だけでも九百点にも及ぶ珠玉の作品が埋まっているのである。
ゴッホの苦難の生涯と、その絶望の淵にあっても、なお福音の如く愛に満ち溢(あふ)れた名作の数々を生み出した奇蹟(きせき)に、世界中の人々がどれほど感動したか、私がここで語るまでもないことである。
だが、しかしと、この本はここからはじまる。ゴッホが死んで一世紀余り、その間大規模な展覧会も度々開かれ、文献も山と積まれたが、半面誇張されたゴッホ神話が作り上げられ、利欲が渦巻き、贋物(にせもの)が堂々と居座って、真正なゴッホ芸術が汚(けが)されていると悲憤する。著者は、その贋物ゴッホの駆逐に単身勇猛果敢に戦いを挑む。
日本推理作家協会賞を受賞した「ゴッホの遺言」(一九九九年刊)では、オランダ・国立ゴッホ美術館所蔵の、かの有名な「ゴッホの寝室」のスケッチを贋物と断じ、世に衝撃を与えたが、この本はその後に続く四冊目の本である。
筆鋒(ひっぽう)は一段と鋭く、ゴッホの絵の中でも人気随一の「ひまわり」の油絵のうち、先の大戦で焼失した兵庫県芦屋にあった「ひまわり」、バブル期五十八億円で落札されて東京にあった「ひまわり」は共に贋物と断じ、さらにオルセー美術館所蔵の「ジヌー夫人」も、贋物の塊(かたまり)と断定する。
世界中の美術館を巡(めぐ)り、すでに十年の歳月を費やしている。現場を踏み、出所や来歴、造形的分析、科学的検証、文献との整合性など徹底的に調査し、大美術館公認の作品を逐一論駁(ろんばく)して贋物と断言する論究は、読んでいて壮観である。
著者は愛知芸大の教授で、会えば盃を交わして語り合う友人でもあるが、この本が単なる事件本ではなく、新鮮な芸術論の領域にあるのは、彼のゴッホに対する並々ならぬ熱い思いが、実に純粋だからである。それにしても、この世界は昔から贋物だらけである。金のため隠れてごそごそと贋絵を描いている絵かきの姿を想像すると、悲しくてやりきれない。 (画家・菊畑茂久馬)
▼きくはた・もくま 画家。1935年、長崎市生まれ。57年-62年、前衛美術家集団「九州派」に参加。主要作品に「奴隷系図」「ルーレット」「天動説」の各シリーズ。97年に西日本文化賞、2004年に円空賞をそれぞれ受賞。「絵かきが語る近代美術」など著作も多い。2020年5月に他界。
=2008年1月27日西日本新聞朝刊に掲載=
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