江口寿史展
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福岡アジア美術館
2020/06/23 |
ARTNEでは、2020年5月21日に他界された福岡市の画家、菊畑茂久馬さんを追悼し、過去、菊畑さんが西日本新聞で執筆した書評や本についてのコラムを連載します。
【第3回】
「日本近現代美術史事典」(東京書籍 多木浩二、藤枝晃雄 監修)
重厚な論陣、ひしめく熱気
歴史の受けとめ方は百人百様。美術史ともなると、作品の価値評価がさまざまなうえに、芸術表現そのものが多様な価値観のもとで成立し、それが互いに影響し合って混在しているのだから、それを通史として編むとなると並大抵ではない。
特に日本の近現代美術は、幕開けから国策に組み込まれたまま、先の大戦による大量の戦争画を生み、敗戦による戦争画責任問題など特異な問題をかかえたまま今日に至っている。
この歴史的断絶をどう包括的にとらえ今日につなげるか。さらに現下の美術界は、批評の不在や、美術館活動の空洞化、展覧会の衰退など、難問が山積している。
このような中で、近現代美術史の編纂(へんさん)に正面から取り組んだ瞠目(どうもく)すべき事典が出版された。この事典の最大の特徴は、編集者の編成が実に周到なことである。監修者の多木浩二、藤枝晃雄両氏のもと、編集委員七名、各項目の執筆者を合わせると総勢八十二名からなる大編成である。六百五十余㌻の大部とは云(い)え、一冊の美術事典に、これほど多くの執筆者を揃(そろ)えたものは見たことがない。難解な近現代美術史を、大交響楽団で奏でようとしているやに見える。
まず冒頭の「歴史編」では、幕末から今日に至るほぼ一世紀半の美術の流れを、時代の特質によって十一に区分して、それを七人の編集員がリレー式に総説していることである。
この「歴史編」を受けて、第二部「事項・テーマ編」では、この間におけるあらゆる芸術分野の諸問題を二十四の「領域」に分類し、さらにそれを「項目」として細分化している。これを粒揃いの大勢の執筆者たちが、それぞれ専門の分野を担当して、これまでの判断や価値形成に対する批判、今日の問題点など、なに憚(はばか)ることなく、思う存分、論を展開していることである。この事典の中の論の総数、実に二百十八項目にも及ぶ。
従来の事典にありがちの、時系列に事象を並べ、数人の識者が標準的な解説で事足りたものに比べると、大勢の執筆者たちの論でひしめく熱気は、この美術史事典を躍動感あふれるものにしている。
現場を踏みしめている人たちの切実な発言によって、美術史はもとより、現下の状況を読者におのずから読んで考え、そして論者と対話をつくる生き生きとした近現代の美術事典となっている。(画家・菊畑茂久馬)
▼きくはた・もくま 画家。1935年、長崎市生まれ。57年-62年、前衛美術家集団「九州派」に参加。主要作品に「奴隷系図」「ルーレット」「天動説」の各シリーズ。97年に西日本文化賞、2004年に円空賞をそれぞれ受賞。「絵かきが語る近代美術」など著作も多い。2020年5月に他界。
=2007年12月23日西日本新聞朝刊に掲載=
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