九州、山口エリアの展覧会情報&
アートカルチャーWEBマガジン

ARTNE ›  FEATURE ›  連載記事 ›  菊畑茂久馬さん追悼連載④「漱石先生大好きぞなもし」【2008年コラムより】

菊畑茂久馬さん追悼連載④「漱石先生大好きぞなもし」【2008年コラムより】

2020/06/24 LINE はてなブックマーク facebook Twitter

 ARTNEでは、2020年5月21日に他界された福岡市の画家、菊畑茂久馬さんを追悼し、過去、菊畑さんが西日本新聞で執筆した書評や本についてのコラムを連載します。

 

【第4回】「坊ちゃん」直筆を楽しむ 漱石先生大好きぞなもし

 夏目漱石の「坊っちゃん」を、漱石自筆の原稿で読んだ。と云(い)うとちょっと噓(うそ)。「直筆で読む『坊っちゃん』」(集英社)という珍しい本を読んだのだ。

 いや本当を云うと読んでいない。すぐ投げ出した。直筆の原稿をそのまま印刷した本なんて読めたもんではない。

 そこで漱石先生が、一旦(いったん)書いた文章をガリガリと消して書き直した、そのガリガリの下の文章を懸命にほじくって読んでみたり、用紙の汚れを、これ、ひょっとして漱石先生の指紋じゃなかろうかと、天眼鏡を引っぱり出して覗(のぞ)いてみたりと、結構面白く読んだ。いや遊んだ。

 実は昔、漱石先生とは妙なご縁があった。かつて先生は熊本の内坪井町に住んでおられたことがあった。鏡子夫人と新婚生活を過ごした家である。その家に、わけあって義兄が住んでいた。家屋も広大な庭も当時のまま保存されていて、門の前には、その旨の立て札も立っていた。面白いのでよく泊まりに行った。

 漱石先生が寝ていた部屋で眠り、同じ茶の間で食事をして、先生が使われた厠(かわや)で用も足した。今は市の漱石記念館になっているそうだ。そんなわけで、私は漱石先生が大好きぞなもし。(画家・菊畑茂久馬)

 

▼きくはた・もくま 画家。1935年、長崎市生まれ。57年-62年、前衛美術家集団「九州派」に参加。主要作品に「奴隷系図」「ルーレット」「天動説」の各シリーズ。97年に西日本文化賞、2004年に円空賞をそれぞれ受賞。「絵かきが語る近代美術」など著作も多い。2020年5月に他界。

=2008年3月2日西日本新聞朝刊に掲載=

おすすめイベント

RECOMMENDED EVENT
Thumb mini 0f54d98ee9
終了間近

特別展「生誕270年 長沢芦雪―若冲、応挙につづく天才画家―」

2024/02/06(火) 〜 2024/03/31(日)
九州国立博物館

Thumb mini 4db0098497
終了間近

『きみがいるから』原画展

2024/03/09(土) 〜 2024/03/31(日)
合同会社書肆吾輩堂

Thumb mini 06e57164b2
終了間近

『その怪文書を読みましたか』展

2024/03/16(土) 〜 2024/03/31(日)
hmv museum 博多

Thumb mini 1ac0126173
終了間近

マルタ伝統工芸
ガヌテルアート展
ししゅう糸とワイヤーで作るマルタの花を楽しもう!

2024/03/25(月) 〜 2024/03/31(日)
アクロス福岡2F メッセージホワイエ

Thumb mini 662a82ff3e

朝日焼十六世 松林豊斎 茶陶展

2024/03/27(水) 〜 2024/04/01(月)
福岡三越4階「岩田屋三越美術画廊」

他の展覧会・イベントを見る

おすすめ記事

RECOMMENDED ARTICLE
Thumb mini 93555d5154
連載記事

菊畑茂久馬さん追悼連載③「日本近現代美術史事典」【2007年書評より】

Noimage
連載記事

菊畑茂久馬さん追悼連載②「油山の風土に抱かれて」【2008年コラムより】

Thumb mini f82dc5d78c
連載記事

菊畑茂久馬さん追悼連載①「戦争と美術」【2008年書評より】

Thumb mini 3bdde3b5c3
コラム

モクちゃん 人生の居候【寄稿 野見山暁治】

Thumb mini 911181454d
コラム

菊畑茂久馬さんを悼む②/潮風吹く桃源の里、原点に 自らを批判、追い詰め 軽やかな晩年作へ【寄稿】

特集記事をもっと見る