江口寿史展
EGUCHI in ASIA
2024/11/09(土) 〜 2025/01/12(日)
福岡アジア美術館
2020/11/06 |
2010年の第1回開催から、瀬戸内国際芸術祭の会場の一角となった国立ハンセン病療養所のある香川県の大島は、入所者の方々がひときわ高齢化しており、新型コロナウイルス感染症防止対策の観点から、とりわけ慎重を期する必要があり、現在は一般への公開がされていない。一般の来島者だけではない。この連載で紹介してきた大島での芸術祭に持続的に取り組んできた美術家たちであっても、まったく入島ができない状況なのだ。
コロナ禍での国際芸術祭開催の困難さについては、すでにこの場でも触れてきた。平成の現代美術を国際的にも国内的にも牽引(けんいん)する晴れ舞台となった「芸術祭の時代」の急激な失速は、自治体はもちろん、美術家や観客、地元住民、そして芸術祭を通じて多くの経験を積んできた国内外のボランティアにとっても、大きな試練の時となっている。
中止や延期、規模縮小、全面的なオンライン化などの苦渋の決断や暗中模索が続くなか、大島と同じ離島で、ひとつの前例となるかもしれない国際芸術祭の試みがこの秋、実施された。
ところは変わり、場所は新潟県の離島、日本海に浮かぶ佐渡島。日本では沖縄本島に次いで2番目に大きい島で、人口も約5万6千人を数える。と言っても、新潟港からフェリー船で2時間半はかかる。県営の空港も運休中で、人口の減少や高齢化などの問題を抱える離島であることに変わりはない。万が一の感染拡大があれば、ただちに医療体制が逼迫(ひっぱく)するのは目に見えている。
この島で14年以来、21年の本開催に向けて、着々と準備が重ねられてきたのが、「さどの島銀河芸術祭」である。秒読み段階に入った今年は、芸術祭プロジェクト名義で、アメリカ、西海岸から音楽家のテリー・ライリーを迎え、ライブ・コンサートなどが開催された。と言っても、国際芸術祭は、美術館や劇場を主会場とする単体の展覧会や催しと違い、随所で人が入り交じり、どうしても密な状況が生まれやすい。というよりも、そのような予想外の接触や、密ならではの世代や国籍を超えた盛んな交流をバネに拡大してきたのが、日本の芸術祭の特徴でもあった。芸術祭最大の魅力が、コロナ禍では感染拡大の危険そのものへと裏返ってしまったのだ。会場が離島なら、なおさらだろう。加えて主役のテリー・ライリーは、すでに85歳を数える。
この状況で主催者が採用したのが、ライリーのライブへ参加する者すべてにPCR検査の陰性を条件づけることだった。実際、私もこれを機に初めてPCR検査を受けた。結果は陰性で、だから芸術祭に向かうことができたのだが、心がざわついたのも事実だ。自己負担となる費用の面でも、心理的にも小さくない不安が生じるやり方も、誰しもが楽しめるはずの芸術祭として妥当かどうか、賛否が分かれるところだろう。だが、仮に今後コロナ禍が長期化するなら、芸術祭を心の底から楽しめるためにも、この方法の採用はひとつの可能性ではある。もう、過去には戻れないのだ。
しかしそのためには、PCR検査が日常の風景のなかで当たり前のものとなるほど普及し、経費の面でも躊躇(ちゅうちょ)しない公的な補助が必要だ。アートとPCR検査という、かつてなら想像もしなかった組み合わせも、今後は一対のものとなっていくかもしれないのだから。(椹木野衣)
=(11月5日付西日本新聞朝刊に掲載)=
椹木野衣(さわらぎ・のい)
美術評論家、多摩美術大教授。1962年埼玉県生まれ。同志社大卒。著書に「日本・現代・美術」「反アート入門」「後美術論」「震美術論」など。
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