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【連載】山出淳也 アート、まちに出る 34

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山出淳也
2021/04/01
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風景を残す

 その日、僕は山道を歩いていた。

 ある地域を舞台に芸術祭を企画してほしいと依頼されたからだ。全ての企画は観察から始まる。その場所にふさわしいあり方を考えながら、歩いていた。

 椎茸(しいたけ)栽培のため、無数のくぬぎの木が整然と並べられている風景に目がとまった。「きれいですね」。感心してそのホダ場の管理者に聞くと、「椎茸だけじゃなく、この大地も育てているんです」と答えてくれた。そういえば、日田市で梅を栽培しているあの人も同じようなことを言っていたと思い出す。「そうか、この素敵(すてき)な風景が残っているのは、彼らがそういう思いを持っているからなんだな」。土地と向き合う人。先人から受け継いだ技術や文化を大切に守ろうとする人。彼らの想(おも)いが豊かな土地や文化を残すのだと気がついた。

 芸術祭のような大きな事業には県外からの参加者が大半を占める。その方々に「これぞ大分県」というお土産を勧めたい。想いを持つ生産者によって作られる多くのものは大量生産に向いていない。でも、多くの人が訪れ、たくさん売れている店の商品が県外産だとしたら、地域にはどのくらいお金が残るのだろう? 仮に主原料が大分県産であることにこだわった商品群がそこまでは売れなかったとしても、むしろ地域の生産者に還元できるのではないか。結果的に、この素敵な風景を残せるのではないか、そう考えた。

 そうやって生まれたのが『Oita Made』という仕組みだ。統一のマークでデザインされたパッケージに包まれた100種を超える多様な商品群。僕の中でこのブランド作りは、景観保全運動に他ならない。

 事業が動き始め数年たって、大分の地銀が中心となり地域商社『Oita Made株式会社』が生まれ、このブランドは僕たちの元から巣立っていった。今では大分市の一等地が『Oita Made』の本店である。

 100年後、僕たちの孫か、その子どもたちに、この素敵で豊かな風景を残せますように。(やまいで・じゅんや=アーティスト、アートNPO代表。挿絵は鈴木ヒラクさん)

=(12月23日付西日本新聞朝刊に掲載)=

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