北九州市立美術館 開館50周年記念
「足立美術館所蔵 横山大観展」スライドトーク
2024/04/13(土) 〜 2024/05/02(木)
北九州市立美術館 本館
山出淳也 2021/04/08 |
スモーク
僕が山口県宇部市の星空のもとに思い出したそれは、「スモーク」という映画だ。
クリスマスになると決まって観たくなる。主演はハーヴェイ・カイテルだ。たばこ屋の店主オーギーは、同じ時間に同じ場所で写真を撮り続けている。10年以上、4千枚ほどの日常の記録。
彼は、事故で妻を失った作家のポールに、それらの写真を見せる。適当にページをめくるポールに、彼は「同じようで一枚一枚違う」と注意する。丁寧に見直し始めるポール。やがて、その中に亡くなった妻の姿を見つける。
いつもと変わらない風景は、ある人にとって特別な瞬間でもある。昨日から今日、今日から明日へと、切れ目なく時は続き、出会いや別れを繰り返す。同じ場所に立ち続け、目の前の風景を切り取るこの映画のカメラの存在と、羊屋白玉さんが宇部で描いた植物の物語が僕の中で重なった。何をも区別することなく受け入れる植物たちの眼差(まなざ)し。彼らは僕たち人類の営みをどのように見ているのだろうか。
映画の中で、あることからオーギーは盲目のお婆(ばあ)さんの家に向かう。彼女はオーギーを自分の孫だと勘違いし、オーギーも孫のフリをして食事を共にする。クリスマスの夜だった。お婆さんは声を聞いてすぐに別人だとわかっていたはず。でも彼女もその嘘(うそ)を信じるフリして、見ず知らずの若者との2人だけの時間を楽しんだ。やがてオーギーは、その家にあったカメラを拝借し、うとうとと幸せそうな顔をして休むお婆さんを残し、その家を出る。気が咎(とが)めていた彼は、数カ月後カメラを返しに行く。しかし、すでにそこにお婆さんの姿はなかった。
受け止める人の心の中で、大切な物語へと育っていくとき、嘘と真実の境界線は曖昧になる。芸術の一つの役割ってそういうことかもなって思う。
大きな宇宙の片隅で、煙のように現れてはやがて消えていく僕たちの存在。その誰にとっても、いつだって特別な瞬間。あなたは今日、どんな1日を過ごしますか?(やまいで・じゅんや=アーティスト、アートNPO代表。挿絵は鈴木ヒラクさん)
=(12月25日付西日本新聞朝刊に掲載)=
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