江口寿史展
EGUCHI in ASIA
2024/11/09(土) 〜 2025/01/12(日)
福岡アジア美術館
2021/03/26 |
3月21日、東京でもようやく緊急事態宣言が解除された。時期尚早という声も聞くが、都心での人出はすでに宣言下とは思えない賑(にぎ)わいで、気温の上昇とともに日に日に増していた。いろいろな意味でもう限界だった。解除のうえいっそうの対策強化をするしかあるまい。
むろん不安材料は尽きない。ワクチンの接種もまだまだ具体的な日程が見えない。BBCの報道によると英国では成人のおよそ半数がすでに1回目の接種を終えたという。海外へのバカンス旅行、歳や距離が離れた家族と直に集う道も開けつつある。日本ではいつのことになるのだろう。だが、もっとも懸念されるのはウイルスの変異である。
聞くところによると、新型コロナウイルスは週の単位で変異を繰り返しているという。それもそうだろう。感染者が人類規模でいるのだから、その複製・増殖はこれまで地球上でいったい何度繰り返されたのか。想像すると気が遠くなりそうだ。変異は遺伝子コピーのちょっとしたエラーから生まれる。のべつまくなしに起きていてもなんの不思議もない。
もうだいぶ前から、この場を通じて新型コロナウイルス感染症のパンデミックとグローバル資本主義とのつながりについて書いてきた。それは主に無際限な開発による生態系の破壊や人類にとって未知の環境の露出、さらにそれらと新たに接触するヒトの増加、大規模な移動、そして加速化についてのものだった。だが、新型コロナウイルスとグローバル資本主義とは、別の面でも酷似した側面を持つ。それが先に触れたウイルスの無際限な変異である。
資本主義は絶えまない新たな商品価値の創出をエンジンとする。結果的になにが資本家に莫大(ばくだい)な利益をもたらすかは、前もって計画することができないからだ。ゆえに、資本主義はつねに市場に対し大量かつ多品種の商品を供給し続けなければならない。そのうちのひとつでも薄利多売に当たれば、莫大な富がもたらされる。似たような商品でも、手を替え品を替え絶えずマイナーチェンジし続けなければならない理由はそこにある。
言い換えれば、資本主義体制下では商品は際限なく変異し続けなければならない。長期にわたり売れ続けるロングセラーは確実な利益を生むが、それ以上の利益を生む商品が出てこなければ市場は拡大しない。市場の拡大が資本主義の命題なのであれば、当面は不要であっても、商品は些細(ささい)な細部で変異を繰り返し、何度でも市場に再投入される。いずれそのひとつが大ヒットを生むかもしれないからだ。
これはウイルスの挙動とたいへんよく似ている。ウイルスにとっても大ヒットはわずかでよい。だが、それを生むためには無限回ともいえる無駄な変異が必要で、それは無駄が無駄でなくなるほんのわずかなヒットのために投機的に賭けられている。
決定的な違いは、ウイルスには資本が不要だということだ。ウイルスはどんなに変異を繰り返しても損失はなにもない。その点で超資本主義的なのだ。ゆえに資本主義をどんなに加速させてもウイルスの超資本主義を凌駕(りょうが)することは原理的に言ってできない。資本主義が現在の人類を駆動する成長の拠(よ)り所(どこ)だとしたら、ウイルスはそれを乗り越え、最終的な地球の勝利者になるかもしれない。新型コロナウイルスの変異に大ヒットが出ないことを心より祈るしかない。(椹木野衣)
=(3月25日付西日本新聞朝刊に掲載)=
椹木野衣(さわらぎ・のい)
美術評論家、多摩美術大教授。1962年埼玉県生まれ。同志社大卒。著書に「日本・現代・美術」「反アート入門」「後美術論」「震美術論」など。
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