特別展「浄土九州ー九州の浄土教美術ー」
2018/09/15(土) 〜 2018/11/04(日)
09:30 〜 17:30
福岡市博物館
末吉武史 2018/11/01 |
浄土九州展では会場入口に奇妙なアイキャッチを設置しています。
西光寺の五趣生死輪図(ごしゅしょうじりんず)を立体化したもので、人が死んだあと5つの世界(天道・人道・畜生道・餓鬼道・地獄道)に生まれ変わるとする仏教の考え方、輪廻(りんね)をあらわしています。
今回は、その輪廻を体験してもらおうと、無常大鬼(むじょうだいき)が持つ生死輪(しょうじりん)をお客さん自身に回してもらうことにしました。輪の下にはさりげなく赤い矢印が付いていて、自身の来世が占えるという趣向です。
「縁起でもない・・」と眉をひそめる向きもあるかと少し心配したのですが、皆さん案外明るく楽しんでいただいているようで、ギャラリートークでも「年末ジャンボ宝くじ!」とか言って笑いをとれるので重宝しています。
施工した某社長によれば新幹線で使うような高級ベアリング軸を仕込んだそうで、それはもう滑らかに回ってなかなか止まらないのが難点ですが(笑)、高速で回転する生死輪だけをじっと見つめたあと不意に視線を鬼の顔に向けると、こんなぐあいに鬼の顔がぐにゃりと歪む目の錯覚も楽しめます。
ところで、ギャラリートークで「自分が死んだらどうなると思いますか?」とお客さんに質問してみると、意外にも「生まれ変わる」より「すべて消えてなくなる」と答える方が多いようです。例えるなら台風がそのうち温帯低気圧になって雲散霧消するようなイメージでしょうか。
輪廻は「人が死んだらどうなるの?」という問いに対する仏教側のひとつの答えですが、日本人の死生観も昔と今ではずいぶん変わってきているのを感じます(お坊さんも大変でしょう)。
ただ、思想信条的にはいろいろあっても人はいつか必ず死んでしまうのだし、いざというときに焦らないよう心の準備をしておくに越したことはないと思います。死から目を背けている人は夏休みに宿題を最後までほったらかして遊ぶ子どものようなものかもしれません。
浄土九州展もあと1週間を残すのみとなりました。まだご覧になっていない方は、とりあえず生死輪をぐるぐる回して「人生の宿題」について考えてみてはいかがでしょうか。
=2018年10月29日福岡市博物館ブログに掲載=
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