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追悼人間国宝中島宏展によせて 写真家 大塚 清吾さん 「陶工」の指先に焦点―連載【コラム】

2019/05/03 LINE はてなブックマーク facebook Twitter

1970年代、もらった名刺には「陶工 中島宏」と書いてありました。中島さんは当時、柳宗悦の民芸運動に傾倒し李朝白磁を目指していました。何の後ろ盾もなく純粋で、そして強烈な上昇志向があり野心満々。よくしゃべり、生まれ持った感性があった。「この陶芸家を撮りたい」という衝動に駆られました。

写真家 大塚清吾さん


私は東京写真短大(現東京工芸大)で学び、木村伊兵衛さんを師に松竹に勤め、歌舞伎の舞台写真から撮り始めました。やがて返還前の沖縄へ撮影に行くようになり、貧困と基地の現実ばかりに向く報道の在り方に疑問を抱きました。人間の本当の豊かさがここにあるはずだと、次第にレンズは沖縄の陶芸や染織など伝統的で豊かな手仕事に向かい、やがてシルクロードまで踏査して美の深奥を追いかけていました。
中島さんと出会ったのは沖縄取材のころです。すぐにその造形感覚の鋭さに気づき、窯に通いました。作品を真上から見て円心状の彫りを際立たせて撮影するなど、その一部は1990年に工房探訪シリーズ「中島宏/陶芸」(NHK出版)にまとめました。ろくろをする指先が女性的だったのが印象に残っています。

≪作品紹介≫青瓷水指(1978年頃、個人蔵)
マットな質感の釉薬はほのかに青色を帯び、高台部分の釉薬を削り印で銘を入れている。
30代の作で造形はてらいがなく、青の世界を深めてゆく初期の作品。


陶芸家の中まで入り込んで、その全身全霊を撮りたい。私の欲求に中島さんはだんだん受け入れがたいところも出てきたようで、近づきがたくなりました。彼は最後まで野心を失わず、全力で「中島宏」という名の陶工像をつくっていったのだと思います。 (談、聞き手は平原奈央子)

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