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コロナ禍を生きる「自分がいつ『感染者=少数派』になってもおかしくない現実に目を向けられているか」 熊本現美ライフ展

2020/06/10 LINE はてなブックマーク facebook Twitter

社会的弱者に焦点当てた企画展で再開した熊本市現代美術館の担当学芸員 坂本顕子さん

熊本市現代美術館の坂本顕子さん

 緊急事態宣言が解除された熊本市中心部は、多くの人でにぎわっていた。6月1日には、熊本城の見学も県民限定で再開された。日常を取り戻しつつある街の中心部に建つ熊本市現代美術館で、学芸員の坂本顕子(さかもとあきこ)さん(44)はほっとした表情だった。

 「また開館できて本当に良かった」。新型コロナ対策の臨時休館は、約3カ月にも及んだ。担当した企画展「ライフ 生きることは、表現すること」は1カ月以上遅れでようやく開幕にこぎ着けた。

 今の世情だからこそ問いたい企画テーマだった。当初、念頭にあったのは、神奈川県の障害者福祉施設「津久井やまゆり園」で入所者19人が命を奪われた2016年7月の無差別殺傷事件である。「弱者=不要」とする考え方がはびこる背景に、思いをはせていた。

 「弱さの中にこそ、生きていく上で欠かせない助け合いや情愛が生まれる。生きていくことを誰もが肯定される世の中になるための、ヒントとして提示したかった」。企画の狙いをそう説明する。展示は、障害や病、加齢などの困難と向き合い、それを生かす11組の仕事を紹介し、社会的弱者やマイノリティーへのまなざし、異質な存在への想像力を喚起する。

    □  □

 坂本さんにとって、新型コロナの流行は、誰もがたやすく少数者や弱者となることを、如実に示した出来事だった。感染対策が日常となった今、「感染しないこと」が誰にも求められている。同時に、誰もが感染リスクにさらされてもいる。感染すれば感染者自身や医療従事者への差別の他、感染者を出した施設にまで非難が向く。

 「そうした行動は、自分がいつ『感染者=少数派』になってもおかしくないという現実に目を向けられているでしょうか」

片山真理さんのセルフポートレート(奥)や撮影に使用したオブジェが並ぶ「ライフ」の会場


 今年木村伊兵衛賞を受けた片山真理さんは、9歳のときに病気で両足を切断。セルフポートレートは、自らの姿を力強く、ときになまめかしく写す。「普通」ではない自らの身体を、アーティストとしての目線で見つめる。写るのは一人だが、制作や日々の生活を支える家族やスタッフの助けも大きいのだという。

 特別支援学校出身のアーティスト藤岡祐機さんは、糸ほどの細さまで紙を切って造形作品を生み出す。渡邊義紘さんは、恐竜や動物といった複雑な形をはさみ1本で切り出す。2人とも、作品の分類と保存、額装は家族が手伝う。人の手を借りることで、アーティストたり得ているのだ。

 熊本の「自撮りおばあちゃん」こと西本喜美子さんは、高齢者であることを利用した「自虐」が笑いを誘う。豊橋技術科学大で開発された「ごみ箱ロボット」は、自分でごみを拾えないため人間の助けを要する。

 11組に共通するのは「厳しく向き合う」「開示する」「周囲の手を借りる」など、それぞれの考え方と方法で、弱さと折り合いをつけていることだ。その姿勢は、多数派だと思っている人々にとっても、生きていく上で必要なものだろう。差別や誹謗(ひぼう)中傷に歯止めをかけるのは、いつか「自分もそうなる」との意識と想像力だ。坂本さんは言う。

 「実は誰だって弱いし、助けてほしい。でも、弱さを見せられない、受け入れない不寛容さも世の中にはある。そういった意識を変えることに、美術館として取り組んでいきたい」

    □  □

 「不要不急」の力 発信する場所に

 熊本市現代美術館は16年4月の熊本地震で被災。70日後に全面再開した際、美術館が美術館のまま「居場所」として機能できていると実感した。避難所生活に疲れた人たちが、館内でくつろぐ光景もあった。

 今回は少し事情が違う。誰でも利用できる館内の椅子は数を減らし、入館時には検温をする。坂本さんも「ずっと開けたいと思っていた。でも、ブレーキがかかる部分もあった」とジレンマを打ち明ける。一部の美術館は、なお県外客に来場を控えるよう呼び掛けている。何が正しいことなのか。迷いはこれからも完全には消えないだろう。

 「それでも開館して良かった」。坂本さんは自身に言い聞かせる。ともすれば「不要不急」とされがちなアートが、今の世の中に対してメッセージを発信することで、その力を公に示せる場所こそが美術館なのだから。(諏訪部真)=6月9日付西日本新聞朝刊に掲載=

 ◇「ライフ」は6月14日まで熊本市現代美術館で開催。一般1100円など。

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