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奈良原一高展 底流にある 人が生きる力強さ 長崎県美がデビュー作で追悼【コラム】

2020/07/20 LINE はてなブックマーク facebook Twitter

 石炭を掘るために人工的な巨大な建造物に覆われた長崎の「軍艦島」と、鹿児島の桜島の溶岩に埋もれ、自然に支配された黒神村。外界から隔離された過酷な環境にある対照的な二つの土地で暮らす人々の力強い生を捉えた写真群が放つ輝きは、撮影から60年近く経過した今も色あせていなかった。

 今年1月に亡くなった写真家、奈良原一高(1931~2020)が幼少期を過ごした長崎市の県美術館で追悼展が開かれている。同館が所蔵する「人間の土地」シリーズ93点のうち、二つの土地で撮影した各13点を対になるように展示している。

《浴場》 1954ー57撮影(『人間の土地』より)©Narahara Ikko Archives 

 「人間の土地」は奈良原が1956年の初個展で発表したデビュー作。へき地の情景とそこで暮らす人々を映画のワンシーンのように練られた緻密な構図と映像美で切り取り、「従来の写真表現を塗り替えた」と高く評価された。

 展示した26点からは、奈良原の作品の中枢をなす特徴が感じられる。

《岩壁》 1954-57撮影(『人間の土地』より) ©Narahara Ikko Archives

 一つは対比でテーマに迫る手法。お使いや子守をする少年、しけで波しぶきをかぶる建物、無機質な集合住宅のベランダに置かれた鉢植えなど、「自然対人間」や「社会機構対人間」といった対比を通して二つの土地の共通項を浮き彫りにしている。この手法は北海道の男子修道院と和歌山の女子刑務所で撮影し、心理的にも閉ざされた状況に踏み込んだ「王国」シリーズに引き継がれた。

 もう一つは被写体に対する独特のまなざしだ。慈しみを感じさせながらも、独特の距離感で客観性を保っている。遭遇した事象をそのまま伝えるのではなく、深く考察して明確なテーマを練り上げていく、対象を俯瞰(ふかん)する巨視的な視覚をデビュー時にすでに獲得していることが分かる。

 「人間の土地」が今も人をひきつけるのは、人間はどのような状況でも生きていこうとするし、生きていることを証明するような姿を写しているからではないか。新型コロナの感染や古里を襲う自然災害などで人間の非力さを痛感させられる現在、とかく忘れられがちな人間が持つ地力を再確認させてくれる。(佐々木直樹)

=7月17日付西日本新聞朝刊に掲載=

 

「奈良原一高―人間の土地」
7月26日まで、長崎市出島町の長崎県美術館。一般420円など。

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